研究課題/領域番号 |
23H02829
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
宮武 聡子 横浜市立大学, 附属病院, 准教授 (50637890)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ロングリードシーケンサー / 神経筋疾患 / 脊髄小脳変性症 / リピート伸長病 / CANVAS / SCA27B / ナノポアシーケンス / ターゲットロングリードシーケンス法 |
研究実績の概要 |
本課題は全エクソーム解析を行っても原因が特定できていない神経筋疾患症例を対象に、ショートリード型次世代シーケンサの弱点を補完するロングリード型次世代シーケンサによる統合ゲノム解析を行って遺伝学的要因を同定し、それを起点に分子病態を明らかにして、治療への道筋をつけることを目指すものである。 これまでに、ナノポア全ゲノムロングリードシーケンスを行い、遺伝学的原因未同定の筋萎縮性側索硬化症186例、脊髄小脳変性症75例、眼咽頭遠位型ミオパチー11例のデータを集積した。同疾患症例のデータを統合させて、リピート伸長、構造異常、難読領域の塩基置換バリアント、メチル化の異常等を検索する。また教室に集積している日本人の多数のコントロールデータとの比較を行い、新規遺伝要因の探索を行う。これまでに特に新規のリピート伸長変異の同定に注力し、統計学的手法を取り入れてゲノムワイドな探索を行う解析系を独自に構築した。本解析系を用いて、現在までに筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、それぞれについて、複数の症例で統計学的に有意なリピート伸長が見られるローカスを新規疾患責任候補領域として抽出している。 また、2023年度に、SCA27B(FGF14-ataxia)について、460例の遺伝学的原因が不明の小脳失調症の日本人症例と1022例の非罹患日本人を対象に、従来のPCRベースの検査法とロングリードシーケンスを併用して詳細に検討し、日本人におけるSCA27Bのゲノム的特徴、およびSCA27Bの発症閾値について新たな知見を見出し、結果はJournal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry誌で出版予定となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、69検体(筋萎縮性側索硬化症59例、眼咽頭遠位型ミオパチー10例)についてナノポアロングリードシーケンスを行った。筋萎縮性側索硬化症2例、眼咽頭遠位型ミオパチー1例で別疾患と関連があるリピート領域の伸長が検出され、未知の表現型―遺伝型連関である可能性があり検討中である。眼咽頭遠位型ミオパチー2例は、既知のリピートローカスに伸長が検出された。 また、2023年度は、2022年末に欧米から報告された、新たな脊髄小脳変性症であるSCA27B(FGF14-ataxia)について、460例の遺伝学的原因が不明の小脳失調症の日本人症例と1022例の日本人コントロールを対象に従来のPCRベースの検査法とロングリードシーケンスを併用して詳細に検討した。その結果、FGF14リピートモチーフの多様性と疾患との関連、またそれぞれのリピートモチーフは進化的に別々の由来であることが明らかになった。さらに欧米人と日本人における病的FGF14リピート伸長はそれぞれ別の創始者から由来することが示唆される結果を得て本ローカスが民族多様性を持つこともわかった。これまでSCA27Bについては、疾患を発症するリピート回数の閾値は250回と考えられていたが、民族多様性の影響を受けない、日本人に限定した精密な解析により疾患を発症する閾値が、従来の想定よりさらに短い200回程度と考えられることを見出した。このクライテリアに従うと460 人中14人がSCA27Bと診断された。以上の成果はJournal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry誌で出版予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、それぞれについて、複数の症例で統計学的に有意なリピート伸長が見られるローカスを新規疾患責任候補領域として抽出している。今後は、候補変異を別のシーケンス手法を用いて確認、確定させ、次にPCRベースで変異スクリーニングする簡便な系を確立させたのち、これまでに集積している同疾患の検体について変異スクリーニングを行い、同じローカスの変異を持つ症例を検索する。必要に応じてGeneMatcher (https://genematcher.org/) 等を適宜利用し国内外で同じ所見もつ類似症例を検索する。 さらに、リピート伸長が発現に与える影響について種々のゲノム手法を用いて調べ、変異の病原性を明らかにし、さらにはin vitro, in vivo の様々な系での検証へつなげて、病態解明を目指す。 また、構造異常、難読領域の塩基置換バリアント、メチル化の異常等についても、日本人コントロールと比較しながら患者で有意に同定される変化を検出できる解析系を整備し順次探索する。
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