研究課題/領域番号 |
23H02846
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石川 正純 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (80314772)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | BaTiO3線量計 / 高密度多次元線量計 / 放射線治療 / 患者個別QA |
研究実績の概要 |
当研究室ではBaTiO3を誘電体とするコンデンサの静電容量がX線照射によって変化することを発見したが、そのメカニズムは未だ解明できていない。また、BaTiO3誘電体は時間経過とともに静電容量が減少(エージング現象)し、このことが線量測定精度に影響する。そこで本研究では、BaTiO3誘電体の静電容量が放射線照射によって変化するメカニズムを解明することを第一目的として研究を進めた。 まず、研究を効率よく進めるために粉末X線回折装置を新たに購入し、放射線照射に伴う詳細な結晶構造変化の解析を行うための準備を進めた。放射線照射に伴う静電容量変化メカニズム解明の一環として、陽子線および重粒子線(Fe 500MeV/u)による照射実験を行ったところ、いずれもX線照射と同様に静電容量が変化することが確認できた。重粒子線照射では、ブラッグピーク近傍において静電容量変化が小さくなったことから、LET依存性が存在することも確認された。このことは電離密度が静電容量変化に寄与している可能性を示唆している。BaTiO3粉末に対してX線・陽子線・重粒子線そそれぞれ照射した時のX線回折データを比較したが、現時点では線質の違いによる明確な違いは見られなかった。このことを元に、さらなる静電容量変化メカニズムの解明を進めたい。 次に、第2の目標であるBaTiO3を含有する市販の積層セラミックコンデンサを利用した高密度多次元線量計の開発では、8ch独立での並行読み出し回路の製作に成功し、X線照射および重粒子線照射実験において精度よく測定できることを確認した。また、96個の素子を1mm間隔で配置した1次元アレイ線量計および16×16=256個の素子を2mm間隔で配置した2次元アレイ線量計の設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で研究課題の核心をなす学術的「問い」として設定した、5項目うち進捗のあった3項目について報告する。 1. 放射線照射に伴う静電容量変化のメカニズムは? → 粉末X線回折装置Miniflex600Cを新たに購入し、放射線照射に伴う詳細な結晶構造変化の解析を行うための準備を進めた。X線照射有無によるBaTiO3粉末のX線回折データを収集し、RIETAN-FPを用いてRietveld解析を試みている段階である。Rietveld解析により結晶構造が明らかになった段階で、X線・陽子線のX線回折データから各線質による照射に伴う結晶構造変化について考察を進める。また、簡易型原子間力顕微鏡を新規で購入し、nmオーダーで表面状態を観測できることを確認した。 4. 超高密度多次元線量計を構成する最適な材質は何か? → 本線量計ではアニーリングによる静電容量回復が重要であることから、アニーリングの温度と時間について詳細な調査を行った。その結果、140℃以上かつ2分以上でアニーリングを行うことにより、安定した静電容量回復効果が得られることが分かった。そこで、アニーリング温度を150℃、アニーリング時間を2分間と設定し、この温度・時間において剛性、靱性、非脆性などの劣化が無く水等価に近い樹脂素材を検討することとした。 5. 粒子線照射に対する線量測定は可能か? → 陽子線および重粒子線(Fe 500MeV/u)による照射実験を行ったところ、いずれもX線照射と同様に静電容量が変化することが確認できた。重粒子線照射では、ブラッグピーク近傍において静電容量変化が小さくなったことから、LET依存性が存在することも確認された。アニーリングによる静電容量回復効果も確認できたことから、繰り返し測定も可能であることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
粉末X線回折データの解析では、Rietveld法を利用する予定であったが、現時点で良い収束結果が得られていないことから、全パターン解析法の利用を検討する。X線・陽子線を照射したBaTiO3粉末のX線回折データは取得済みであるが、重粒子線照射はマシンタイムの制約上取得することができなかったことから、2024年度の後期HIMACマシンタイム申請を行い、炭素線でのデータ取得を行いたいと考えている。 また、非導電性カンチレバーに金蒸着を施した自作導電性カンチレバーを用いて、原子間力顕微鏡によるサブμmオーダーの空間分解能で静電容量測定を行い、ドメイン配向状態の取得を試みる。エージングおよび照射に伴うドメイン配向変化から、それぞれのメカニズム解明のための情報を取得する。 エージングの抑制による測定精度の向上について、第一原理計算による原子配置設計を検討する。2023年度の研究において第一原理計算ソフトウェアPhase/0をインストールし、講習会に参加することで基礎的な使用方法についてレクチャーを受けたが、点欠陥の生成エネルギー計算に致命的な不具合があり利用できなかった。その後のアップデートで不具合が解消されたとの報告されていることから、Phase/0を利用した酸素欠損に伴うアニーリング状態の解析を試みる。 高密度多次元線量計として設計した96個の素子を1mm間隔で配置した1次元アレイ線量計および16×16=256個の素子を2mm間隔で配置した2次元アレイ線量計を実際に製作し、1次元および2次元での線量分布取得を試みる。
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