研究課題/領域番号 |
23H02881
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
古道 一樹 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10338105)
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研究分担者 |
菱木 貴子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10338022)
芝田 晋介 新潟大学, 医歯学系, 教授 (70407089)
遠山 周吾 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90528192)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 先天性心疾患 / 遺伝子変異 / 心臓流出路発生 / 心臓前駆細胞 |
研究実績の概要 |
我々は、心臓流出路発生に中心的な役割を果たす新規の疾患原因遺伝子を明らかにするため、総動脈幹症の日本人患者のうち症候群の特徴を持たない症例28例に対して、網羅的遺伝子解析もしくはターゲットシーケンスを行ない、5例にホモ接合型の同一の遺伝子バリアントTMEM260 c1617delを検出した。このバリアントは、in silicoの解析において高い病原性が予測され、患者由来不死化リンパ芽球ではTMEM260の発現が低下しており、ナンセンス変異依存mRNA分解が疑われた。さらにin vitroの解析において、ウエスタンブロット上、変異蛋白は野生型と比較して低分子量であること、HEK293T細胞への強制発現系で、野生型は細胞内の小胞体にほぼ均一に分布していたが、変異蛋白は細胞内で凝集を認めた。本バリアントは、日本人と韓国人に特有であり、総動脈幹症の原因として知られている22q11.2欠失症候群に次いで多く、単一の遺伝子バリアントとしては最頻であることを明らかにした。TMEM260は、胎生8.5-11.5日のマウス胎仔を用いたWhole-mount in situ hybridizationで、胚全体に発現を示すが、Tmem260のイントロン3にある約0.8kbのゲノム領域(Tmem260 -intron3-807 bp)は、Isl1, Tbx5, Gata4, Hand2, Mef2cを含む複数の心臓関連転写因子が集中して結合することが判明した。Tmem260 -intron3-807 bpにhsp68およびLacZを連結させた遺伝子改変マウスにおけるLacZの発現が、心臓流出路、右心室, 二次心臓領域および咽頭弓で観察され、Tmem260 -intron3-807 bp がエンハンサーとして心臓流出路の発生過程におけるTmem260の発現を制御している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総動脈幹症26名と心室中隔欠損兼肺動脈閉鎖症 78名の計101名に遺伝子変異解析を行い、5名のPTA患者、1名のPA-VSD患者にTMEM260 c.1617 delバリアントを同定した。同バリアントの機能解析を行うために、マウスTmem260をクローニングし、ヒト c.1617delに相当するc.1605delを変異導入した。in vitroにおいてこのTMEM260変異蛋白は分子量の低下と細胞内で凝集を認めた。E8.5, 9.5, 10.5, 11.5のマウス胚においてTmem260 のin situ hybridizationを行い、解析時期においてTmem260は心臓流出路にも発現していることを明らかにした。Tmem260の転写制御のメカニズムを明らかにするためin silico解析で同定したintron 3の0.8kbpエンハンサー候補領域の配列にHSP68プロモーター、LacZ遺伝子を連結させた遺伝子改変マウスを作製した。F0解析を行い、E10.5のマウス胚において心臓流出路を含む心血管領域にLacZの発現を認めた。同配列をルシフェラーゼベクターへサブクローニングして行ったルシフェラーゼアッセイでは、Gata4, Nkx2.5の存在下でルシフェラーゼ遺伝子は有意に発現が上昇し、同領域はTmem260の心血管領域のエンハンサーとして作用し、Gata4, Nkx2-5が発現制御に寄与する可能性が示唆された。同変異を再現するためにTmem260 Exon13-15をユビキタスに欠失させた遺伝子改変マウス(Tmem260KOΔE13-15)および同領域をflox化した遺伝子改変マウス(Tmem260ΔE13-15fl/fl)の作製が完了し、順調に繁殖を進めており、今春から胎仔の解析に向けて交配を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
①Tmem260転写調節メカニズムの解明:intron 3 およびintron 5に存在する発現制御領域ついて、同定した転写因子結合配列に変異を導入したトランスジェニックマウスを作製する。F0マウス胎仔のXgal染色を行い、Tmem260遺伝子の転写調整メカニズムを明らかにする。 ②Tmem260欠失マウスの表現型解析:ヒトTMEM260 c.1617delバリアントを再現したExon13-15をユビキタスに欠失させたマウスの表現型を解析する。ヘテロ接合性Tmem260KOΔE13-15マウスの雌雄を交配し、胎生7.5日以降のホモ接合性Tmem260 KOΔE13-15マウス胎仔の心臓表現型を解析する。各心臓前駆細胞特異的なマーカー遺伝子を用いたin situ hybridization および免疫染色により、心臓発生過程における心臓前駆細胞の発生、遊走、分化の異常の有無を解析する。さらに免疫染色により各心臓前駆細胞の増殖能およびアポトーシスの評価を行う。 ③心臓前駆細胞特異的Tmem260欠失マウスの表現型解析:神経堤細胞特異的Tmem260KOマウス(P0-Cre:Tmem260ΔE13-15fl/fl)、および二次心臓領域 特異的Tmem260KOマウス(Tbx1-Cre: Tmem260ΔE13-15fl/fl)を作製後、②と同様の手法で解析・比較し、Tmem260が発生を制御する主たる心臓前駆細胞の種類およびその作用時期を特定する。 ④Tmem260の関与する遺伝子発現制御ネットワーク全貌の解析:Tmem260の制御する心臓発生関連因子の遺伝子発現機構の全貌を明らかにするため、上述の実験で特定した Tmem260作用時期における胎仔の心臓および咽頭弓領域を摘出し、single cell RNA sequenceを用いて各細胞集団の遺伝子発現パターンを網羅的に解析する。
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