研究課題
本研究課題は、我々が世界に先駆けて開発を進める「大腸オルガノイド移植による潰瘍性大腸炎(UC)の粘膜再生医療」において、オルガノイド移植による治療効果の発現機序を解明し、消化器疾患領域における再生医療開発をより一層促進する成果を目指す研究の提案である。世界的に大きな注目を集める本再生医療の原理はドナーオルガノイドによる上皮傷害の治癒の補助であるが、実際にはドナー細胞由来の外来上皮が「生きた絆創膏」として機能し、細胞特有の能動性を介して、UC発症に至ったホスト上皮の脆弱性の克服につながる有益性を発揮していることが想定される。上皮のバリアー機能にとりわけ重要な役割を担うとされるスルフォムチンは、UCにおいて病変部位での低下が示されている。本研究課題では、病変局所に炎症耐性の高いスルフォムチン分泌ドナー細胞を、その分泌能を維持したまま移植すること、あるいはそれによって炎症に脆弱なホスト上皮を置換し、脆弱性を解消することにつながるかを検証し、UCに対するオルガノイド移植の潜在的な有益性を明らかにすることを目指す。当該年度は本課題の実施に不可欠なマウス(Papss2fl/fl)を米国ピッツバーグ大学のWei教授より入手し、またこれをVillin-Creマウスと交配させ、腸上皮特異的にスルフォムチンをノックアウト可能なマウスラインの作成に成功した。このほか、当該研究課題の遂行に必須のヒトオルガノイドの解析等を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当該課題の申請時に行なっていた予備的実験の成果として、ヒト潰瘍性大腸炎検体でのスルフォムチンの発現解析・マウス大腸セグメント解析・ヒト大腸セグメント解析とオルガノイドライブラリーの作成などの一連の結果をすでに論文として公表することができた。また遺伝子モデルは2025年度の予定であるが、予定より順調にマウスの作成が完了し、2024年度に前倒しして研究を遂行することが可能である。さらには2024年度の主な研究課題と考えていたDeliveribility of Sulfomucinに関しては同様に確認し、論文とすることができた。
今後の研究推進については、当初目標としていた2024年度の主要項目であるDeliveribility of Sulfomucinのマウスオルガノイドでの確認はすでに完了したので、今年度は、スルフォムチン陽性の盲腸由来のオルガノイドをユビキタスの赤色で標識されるmTmGマウスから樹立し、スルフォムチン陰性の近位大腸オルガノイドをユビキタスにGFPで標識されるGFPtgマウスから樹立し、同時に同一個体に移植(Competition assay)する実験を中心に行う。各々の組織におけるスルフォムチン産生をHID/AB染色等によって定量的に解析するとともに、オルガノイドの移植効率・移植片の大きさ・組織学的改善度合い等を定量的に比較解析する。次にヒトにおいて、スルフォムチン産生能力が高いセグメントと逆に低いセグメント由来のオルガノイドを異なる蛍光蛋白でラベル後に、DSS腸炎を起こした免疫不全マウス(RAG2-/-)に移植する手法で、オルガノイド移植を行い、マウスと同様にスルフォムチン産生が上皮細胞固有の内因性の機序のみで制御されうる「Deliverable(移植可能)な形質であるか」を解析す予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
iScience
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