研究課題
拡張型心筋症(DCM)や心不全の病態には炎症細胞の関与が知られているが、好中球細胞外トラップ(NETs)の意義については未解明である。心臓組織に存在するNETsが心不全においてどのような役割を果たすか明らかにし、NETsの制御が新規心不全治療ターゲットとなり得るか検討した。心内膜下心筋生検を施行した心不全を有するDCM患者の生検検体の蛍光免疫染色を行い、好中球エラスターゼ+、シトルリン化ヒストンH3+、DAPI+をNETsとして同定した。DCM患者における心筋組織単位面積当たりのNETsの数および好中球に対するNETsの割合は、心不全を有さない対照群と比較して有意に多かった。また、心筋組織におけるNETsの数は、左室駆出率(LVEF)と負の相関を認めた。NETsを有するDCM患者(n = 32)はNETsを有さないDCM患者(n = 30)と比較して、LVEFは低値で、BNPは高値であった。観察期間中央値768日の予後に関する検討では、心筋組織のNETsの存在は、心臓死、心不全増悪、LVAD植込みを含む心臓イベントのリスクと関連していた。NETs形成に必須であるペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)を欠損させたマウスおよび野生型マウスの好中球由来のコンディショニング培地を用いて、NETsが単離心筋細胞のミトコンドリア機能に与える影響を解析した。野生型マウスの好中球にNETsを誘導した培地では、単離心筋細胞のミトコンドリア機能の低下が認められたが、PAD4欠損マウスの好中球由来の培地では、ミトコンドリア機能は維持されていた。
2: おおむね順調に進展している
DCM患者の心筋生検検体において、好中球エラスターゼ+、シトルリン化ヒストンH3+、DAPI+をNETsとして同定した。DCM患者の心筋において、NETsの存在を証明できた。また、NETsは心機能や将来の心臓イベントリスクと関連することを示し、NETsの臨床的意義を初めて明らかにすることができた。また、in vitroの単離心筋細胞を用いた検討で、NETsを誘導した培地では単離心筋細胞のミトコンドリア機能の低下が認められ、PADを介する機序を初めて明らかにした。
NETs形成に必須であるPAD4を欠損させたマウスおよび野生型マウスを用いて、大動脈縮窄(TAC)による圧負荷心不全モデルを作成する。ヒト心筋組織と同様に、蛍光免疫染色を用いたマウス心筋組織のNETsの定量解析を行う。心エコーにより圧負荷心不全モデルマウスの心機能を解析する。圧負荷心不全モデルマウスの心筋細胞を単離し、ミトコンドリア機能を解析し、野生型マウスと比較検討する。クローン性造血によるエクソソームの心不全進展における役割を明らかにするため、エクソソームを構成するテトラスパニンCD9とGFPとの融合蛋白をCreリコンビナーゼで発現するCD9-GFPレポーターマウスと4系統のFloxマウスとを交配する。Vav-Creマウスと交配し、血液細胞特異的ノックイン・エクソソームレポーターマウスを作成する。このマウスに大動脈縮窄による圧負荷心不全モデルを作成して、循環血中エクソソームを単離・抽出する。循環血中エクソソームを抽出してNano粒子分析を行い形態学的・量的解析を行い、FACSでGFP+エクソソームとnon-GFPエクソソームとで蛋白質の質量分析およびmicroRNAを含むRNAの発現解析、DNAのエクソンシークエンス解析よる解析を行う。心筋組織で共焦点蛍光顕微鏡および免疫電子顕微鏡を用いて、心筋細胞内へのCD9-GFP+エクソソームの取り込みや細胞内分布を明らかにする。心不全の病態でダイナミックに変化し、かつそれぞれのクローン性造血モデルで共通するエクソソーム内包の分子を同定する。
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