研究課題
我々は汗孔角化症の発症メカニズムの解析を通じて、汗孔角化症の新しい原因遺伝子FDFT1を発見するとともに、エピゲノム変異という、遺伝子のDNA配列の変化ではなく、遺伝子の働きのスイッチがオフになる変化が皮膚病の原因となることを初めて発見した。本発見は、エピゲノム変異の探索を通じて、まだ原因が分かっていないさまざまな疾患の原因究明に役立つことが期待される。FDFT1におけるエピゲノム変異は、発生初期に生じていることが、エピゲノム変異のみを持つ細胞と、セカンドヒットを生じてクローン性に増殖した細胞とが持つ体細胞変異を網羅的に解析することにより示された。エピゲノム変異を持つ皮膚が、目に見える症状なく存在しており、そこにセカンドヒット変異が生じることで単発のミベリ型汗孔角化症や、抗がん剤投与後に身体の一部分にだけ汗孔角化症が多発する新しい臨床型の汗孔角化症が発症することを明らかにした。我々が発見したFDFT1のエピゲノム変異による汗孔角化症は、他の汗孔角化症とは異なり子どもに遺伝しないため、今後、遺伝学的診断にもとづいて、汗孔角化症が子どもに遺伝する心配があるかどうかを診断できるようになることが期待され、その診断は、多くの患者さんの安心につながることが期待される。さらにこのタイプの汗孔角化症にスタチンの外用が効果的であることが明らかとなり、遺伝学的診断に基づいた汗孔角化症の新しい治療法開発への道が拓かれた。今後は、各皮疹を形成している変異細胞コロニーの拡大メカニズム、コロニー辺縁で生じる細胞競合メカニズム、メバロン酸経路酵素を欠くためにコレステロールを合成できない変異細胞の性質を利用した新規治療法の探索について、更なる研究を進めて行く方針である。
2: おおむね順調に進展している
汗孔角化症の新規原因遺伝子を同定するとともに、原因遺伝子のゲノム変異ではなく、エピゲノム変異によって生じる汗孔角化症があり、臨床的に特徴的な皮疹を生じることを明らかにした。すなわち、汗孔角化症の中に、顕性遺伝性のものと、非遺伝性のものがあることを初めて明らかにできた。本発見は、臨床における正しい診断に役立つだけでなく、遺伝学的検査を通じた診断により、子どもへの遺伝を心配する必要があるかどうかを知ることができるようになるという点で、遺伝カウンセリングにも非常に有用である。以上のように、研究は順調に進展している。
汗孔角化症の新規原因遺伝子を報告することができた。今後は、(1)汗孔角化症の皮疹を形成している変異細胞のクローン性拡大のメカニズム、(2)コロニー辺縁において変異細胞を取り囲む野生型細胞に特異的に細胞死が誘導される細胞競合現象の分子メカニズム、(3)皮疹を形成する細胞がメバロン酸経路酵素を欠くためにコレステロールを自ら合成できないという性質を利用した新規治療法の探索、以上について研究を進めて行く。さらに、汗孔角化症患者を集積して解析することにより、日本人における汗孔角化症患者の臨床型と遺伝学的要因のランドスケープを明らかにし、遺伝子型・表現型の相関性を明らかにする。
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https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20240423-65228/
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