研究課題/領域番号 |
23H02949
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
押海 裕之 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (50379103)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自然免疫 / ウイルス / 感染症 / 代謝異常 / インターフェロン / 肥満 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
ウイルス感染症の死亡や重症化のリスクは肥満や糖尿病などにより増加することが知られているが、そのメカニズムは十分には解明されていない。本研究では、ウイルス感染に対する自然免疫応答の視点から、この問題に取り組み、これまでに実施したケミカルスクリーニングから、これまで代謝を制御することが知られていた化合物が、ウイルスに対する自然免疫をも強く制御することを独自に発見した。本研究では、我々が同定したこれらの代謝を制御する化合物が、どのようにウイルスに対する自然免疫を制御するのかを分子生物学的な解析により研究を進めた。その結果、マクロファージや上皮細胞などの様々な細胞において、我々が同定した化合物がウイルスに対する自然免疫を増強すること、また、その増強は、同定した化合物が標的とした代謝経路を抑制することと密接に関連することを明らかとした。また、この未知のメカニズムに関与する分子経路として、関与する転写因子を遺伝子ノックアウト細胞を作製し明らかとした。 この、代謝異常とウイルスに対する自然免疫とをつなぐ新たな分子メカニズムの生体内での重要性について調べるため、代謝異常症としての肥満症のモデルマウスを用いた実験や、同定した化合物をマウスへ投与するマウス実験などにより調べたところ、培養細胞で観察された現象が、マウスの生体内でも同様に生じることを明らかとした。これらの結果は、本研究で明らかとした抗ウイルス自然免疫と代謝を結びつける新たなメカニズムが、生体内でも重要であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、生体内の代謝経路と抗ウイルス自然免疫とを結ぶ未知の分子メカニズムを解明し、その生体内での重要性を明らかにすることを目的の一つとしている。これまでの研究から、同定した代謝を制御する化合物について、当初の予定通り、培養細胞を用いた解析から、この化合物が抗ウイルス自然免疫に関与するどのような分子経路を活性化するのか、また、その経路における標的分子が何かについて明らかとした。特に、この分子経路に関与する転写因子を同定することができ、さらに、その転写因子により発現誘導される分子を同定し、その遺伝子をノックアウトした細胞を作製し、この経路の重要性を明らかにすることで、ウイルス感染症と代謝異常とをつなぐ未知の分子機構についての理解が大きく進んだ。また、当初予定していたマウス動物モデルとして、肥満マウスモデルなどを用い、培養細胞を用いて明らかにした分子経路の生体内での重要性を示すことができた。このように当初の計画に沿って順調に研究成果を得られていることから、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、我々が同定した代謝を制御する化合物が、ウイルス感染に対する自然免疫応答に強い影響を与える新たな分子メカニズムを解明し、さらに、この分子メカニズムの生体での重要性について、マウス動物モデルを用いた実験で、生体内においてもその重要性を示した。そこで、当初の計画通り、これらのマウス動物モデルを用いた1細胞解析を行い、生体内の1細胞レベルで、代謝とウイルス感染に対する自然免疫を結びつける細胞の集団を同定する。これにより、肥満や糖尿病などの代謝異常が、何故、感染症のリスク因子となるのかを明らかにできると期待される。また、今後は、同定した化合物だけでなく、他の代謝経路を標的とした化合物の影響についても評価し、代謝異常が感染症のリスク因子となるメカニズムの全容を解明する。また、新たに発見したメカニズムの生体内での重要性を評価するために、マウス動物モデルを用いたウイルス感染実験などを実施し、生存率や感染組織のウイルス量、血中のサイトカイン産生などを測定し、その重要性を検証する。
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