研究課題/領域番号 |
23H03029
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
妻木 範行 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 教授 (50303938)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | 軟骨 / 細胞分化 / 網羅的遺伝子発現解析 / iPS細胞 / 椎間板 |
研究実績の概要 |
カニクイザルの軟骨および椎間板、ヒトiPS細胞由来軟骨、変形性関節症の人工関節置換術時に破棄される軟骨のシングルセル化条件を検討した。サンプルを1~数mmの大きさのピースに切断し、コラゲナーゼを含む消化酵素の存在下に細胞外マトリックスを消化し、細胞を単離した。このとき、サンプル切断時に遊離するDNAによる粘性を下げるためDNaseを添加した。培養皿を振盪することで、消化を3時間以内に終わらせることが可能となった。細胞のハッシュタグ化条件を探索し、6サンプルのMultiplex解析が可能となった。血球細胞で発現している細胞膜表面抗原が軟骨細胞では発現しておらず、通常のハッシュタグ抗体が使えない。そこで、細胞膜表面タンパクに対するビオチン化を行うことでハッシュタグ化に成功した。 シングルセルに対してRhapsodyシステムを用いて、cDNA合成、ライブラリーの作製、次世代シーケンスを行いrawデータを得た。一次解析を行ったのち、遺伝子IDを行に、細胞IDを列に配置したマトリックスファイルを得た。Seuratを用いて、細胞のクラスタリングとUMAPによる次元削減を行い2次元のグラフに細胞をプロットした。 カニクイザルの正常関節軟骨と線維軟骨のシングルセルRNA-sequence(scRNA-seq)解析結果から細胞をクラスターに分け、線維軟骨にエンリッチされる細胞クラスターを同定した。その細胞クラスターにエンリッチされている発現遺伝を解析し、線維軟骨のマーカーとなる遺伝子をいくつか得た。 また、椎間板髄核サンプルのscRNA-seq 解析結果から、脊索様髄核細胞と軟骨様髄核細胞のクラスターを同定した。CellChatを用いて、細胞集団間の相互作用/シグナル伝達を探索し、hedgehogシグナルを見つけた。この成果を、Front Cell Dev Biol, 11: p. 1151947, 2023.に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の全体構想は、四肢や脊椎などのヒト骨格が形成・維持されるしくみを分子レベルで解明することである。初年度である2023年度の計画として、軟骨および椎間板、ヒトiPS細胞由来軟骨のscRNA-seq解析のセットアップを行うこととした。豊富な細胞外マトリックスに細胞が囲まれている軟骨と椎間板髄核のscRNA-seqを行うには、シングルセルを迅速に、細胞に与えるダメージを少なくして用意する必要がある。そのための、組織の細断、酵素による細胞外マトリックスの消化条件の探索を行い、決定した。実際にscRNA-seq解析を行い、Seuratを用いた2次解析も行った。そして、線維軟骨のマーカーとなる遺伝子をいくつか得た。また、椎間板髄核について、CellChatを用いて、細胞集団間の相互作用/シグナル伝達を探索し、hedgehogシグナルを見つけた。この成果を、Front Cell Dev Biol, 11: p. 1151947, 2023.に発表した。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
カニクイザルの正常関節軟骨と線維軟骨のscRNA-seq解析結果から得られた線維軟骨のマーカーとなる遺伝子について、免疫組織染色で線維軟骨での発現を確認する。培養軟骨細胞で当該遺伝子をノックダウンし、軟骨細胞の表現型の変化を観察する。また、当該遺伝子のノックアウトマウスを入手して関節軟骨の表現型を調べるとともに、OAモデルを導入してOA病態の変化を調べる。また、マウスの関節軟骨損傷モデルを既報を参考して研究室に導入する。 ヒト変形性関節症の軟骨サンプルについて、scRNA-seq解析を行う。またOA患者由来iPS細胞を樹立し、軟骨オルガノイドに分化させる。それに種々の摂動を与えて、OA病態をin vitroで再現することを試みる。 また、軟骨細胞分化にFGFR3シグナルは重要な働きをするため、FGFR3を恒常活性化する変異を導入した遺伝子改変マウスを作製し、FGFR3シグナルの作用機序を分子レベルで解明する。それから、ヒトiPS細胞の軟骨分化誘導については、軟骨細胞分化は近傍に存在する骨組織の影響を受けるため、骨基質成分であるハイドロキアパタイトの影響を解析することを試みる。
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