研究課題
卵巣癌は婦人科がんの中で最も予後不良な癌種であり、多くは進行した状態で腹膜播種を伴って発見される。初期治療としては、手術でのがん除去が最も重要であるが、手術では取り除き切れない微小ながん細胞に対しては化学療法が用いられる。しかし化学療法による初回治療の成功率は50から70%と高いものの、再発率が非常に高く、再発した場合の生存率は極めて低い。そして再発の主な原因は、初回治療後に残る微小残存病変(MRD)が、ある期間休眠した後に活性化し、腹膜炎を引き起こすプロセスである。治療面での新たなアプローチとして、がん細胞を支える「土壌」となる癌間質の重要性が指摘されている。癌関連線維芽細胞(CAFs)はがん細胞からのサイトカインによって活性化し、組織の硬化や臓器機能低下を引き起こす。これに対し、申請者らは癌間質を治療のターゲットとして注目し、特に卵巣癌の腹膜播種に対しては、腹膜中皮細胞と腹腔内脂肪細胞が重要な役割を果たすことを発見した。これらの細胞は、腹膜の大部分を構成し、がん細胞が腹膜に播種する主な場所となっている。本研究では、これらの細胞ががん関連腹膜中皮細胞(CAMs)や脂肪細胞由来線維芽細胞(ADFs)に脱分化する過程を明らかにし、卵巣癌の腹膜進展において重要な役割を果たすことを明らかとする。そしてAM80がCAMsやADFsの脱分化を阻害し、癌間質を正常化して腹膜環境を改善する可能性があるかを探求し、新しい治療戦略の開発を目指す。本年度はAM80の標的となるmeflin陽性のCAFsの存在と臨床的意義を検証し、meflin陽性のCAFsの卵巣癌進展における意義について検討した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究により、以下の内容に関する検討を行った。これまでの申請者らの研究成果より、meflin陽性CAFsは膵癌において、組織の分化と線維化に関与し、腫瘍の抑制に寄与することが示されている。本年度は、卵巣癌腹膜播種組織でのmeflin発現と生存率に関して検討した。その結果、組織in situ hybridizationによって標識されたmeflin陽性CAFsを多く有する患者では、meflin陰性の患者に比べて3年生存率が有意に高い結果が得られた。これはmeflinが進行卵巣癌の予後に関して重要な指標である可能性を示唆している。さらに、meflin遺伝子を欠損したマウスモデルを用いた実験では、meflinの消失が腹膜播種腫瘍の増大や腹水の形成を促進することが確認された。
上記結果をもとに、卵巣癌腹膜播種モデルにおいてmeflin陽性CAFsの割合を増加させる作用を有するAM80の腫瘍縮小効果を確認する。単独投与に加えて、CBDCAなどの殺細胞性抗がん剤との併用効果を検証し、治療応用への可能性を探る。一方でマウスモデルにおけるmeflin陽性CAFsの腫瘍形成への役割を詳細に検討するために、網羅的解析などの手法を用いた実験を予定する。
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