研究課題
先行研究で、アメロジェニンと細胞膜上の熱ショック蛋白質GRP78が会合し、この複合体が歯根膜細胞の遊走を制御すること、胃薬テプレノンがGRP78を強く誘導し、アメロジェニン添加で創傷治癒・血管新生を促進するサイトカインの分泌を上昇させること、アメロジェニン・GRP78複合体が核内移行しヒストン修飾を誘導することで、マクロファージによる抗原提示を抑制する、等の現象を見出している。しかし、複合体がどのような機序で細胞内に移行し、免疫抑制および創傷治癒・血管新生を促進するのかは依然不明である。本研究はアメロジェニン・GRP78複合体がこれらの機能を制御する分子基盤を解明するため、複合体の構造解析により複合体の細胞内移行の機序や生理的機能を解明することと、またテプレノンにより複合体の活性増強が可能か否かを検証することを目的としている。これらの結果をもって、テプレノンとアメロジェニンの複合投与による新しい歯周組織再生療法を開発すると共に、難治性免疫疾患の新規治療確立に向け研究のさらなる展開を図る。C57BL/6Jマウスから採取した背面皮膚に組換えアメロジェニンを塗布しBALB/cマウス受容部に移植した結果、PBS塗布対照群と比較して移植片の生存期間中央値が6日間延長し、移植片壊死面積も減少した。移植7日後の皮膚組織像では対照群で著しい炎症性細胞浸潤が確認されたが、アメロジェニン塗布群では免疫細胞数とMHC Ⅱ+細胞数が有意に減少した。末梢血中の炎症性サイトカイン量測定において、アメロジェニン塗布群ではIFN-γとIL-2量の低下が観察された。以上の結果から、アメロジェニンによる歯周外科術後の創傷治癒促進機序や、根面被覆のための歯肉移植術におけるアメロジェニン応用の科学的根拠の一端が説明でき、将来的にアメロジェニンが臓器移植医療の場などで免疫抑制剤として応用できる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
動物実験による他科皮膚移植解析に関してはアメロジェニン効果の詳細が順調に判明しつつあるが、テプレノンによる効果と構造解析の成果は遅れているため、上記区分とした。
テプレノンとアメロジェニンが免疫抑制剤となり得るか否かを検討するため、BALB/cマウスからC57BL/6マウスへの皮膚移植における拒絶反応の解析を行なう。皮膚移植片にテプレノン・アメロジェニンを直接塗布して移植、または移植後に筋肉注射で投与し生着期間の延長を測定する。同時に、血液中のリンパ球集団とサイトカイン濃度を調査する。また、ヒトおよびマウス培養マクロファージ株とマウス大腿骨髄マクロファージを用い、複合体がIFNγ誘導性MHC IIの細胞表面発現を抑制するメカニズムを解明する。
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Journal of Dental Research
巻: 102 ページ: 1152~1161
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Frontiers in Physiology
巻: 14 ページ: 1298813
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https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/index.html