研究課題
優れた治療効果をもたらす画期的な免疫療法を具現化するためには、腫瘍微小環境における特異的免疫応答の誘導や免疫逃避機構を解明することが重要である。本研究は腫瘍微小環境における免疫制御機構の解析を進め、治療効果や有害事象を予測できるバイオマーカーの開発に取り組むことにより、個別化・複合免疫療法の基盤を確立して臨床応用に繋げることを目的としている。本年度の研究概要とその成果を以下に示す。1. 口腔癌細胞(OSCC)と癌関連線維芽細胞(CAF)の3次元スフェロイド培養と細胞代謝特性の解析3次元的に形成されたスフェロイドは、2次元培養で形成されたものに比べ生体内の微小環境により近い病態を反映しているものと考えられる。4種類の口腔癌細胞を用いた3次元細胞培養と細胞性状の解析から、悪性度と相関する3次元細胞培養の特性を見出し、口腔癌の病態や薬剤感受性を評価するための有用な指標となりうることを明らかにした。また、CAFの3次元スフェロイドの物理的特性と細胞代謝機能が、CAFの有する潜在的な生物学的多様性を評価するための貴重かつ有用な指標となりうることを明らかにした。2. 口腔癌幹細胞特異抗原とペプチドワクチンへの応用既知の癌幹細胞抗原であるolfactory receptor family 7 subfamily C member 1 (OR7C1)の口腔癌における癌幹細胞(CSC)標的免疫療法の可能性を評価した。その結果、OR7C1タンパク質をコードするOR7C1遺伝子が口腔CSCにのみ発現していること、HLA-A24拘束性にOR7C1口腔CSC特異的ペプチドに対してCTLが反応することを明らかにした。これらの知見を総合すると、OR7C1が口腔癌のCSC標的免疫療法のターゲットとなる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
新規口腔癌細胞株の樹立と口腔癌関連線維芽細胞の培養ならびに3次元スフェロイド培養はおおむね順調に進んでいる。引き続き口腔癌に対する免疫療法のターゲットとなり得る新規癌抗原の同定に向けて研究を推進させる。
1. OSCCおよびCAFの細胞培養OSCC患者の手術あるいは生検材料から一部採取した癌組織を継代培養してOSCC細胞株を樹立し、2次元細胞培養に加え3次元細胞培養や細胞イメージング培養細胞タイムラプス装置による観察も行い、TMEにおける細胞間相互作用について解析する。2. 癌関連遺伝子、蛋白解析OSCC細胞株から染色体遺伝子およびRNAを抽出し、RT-PCR法、ノザンブロット法、DNAアレイ法等にて各種がん免疫関連遺伝子の発現変異解析や免疫組織化学染色法、ウエスタンブロット法にて蛋白発現解析を行う。得られた結果と臨床病理学的因子との関連について分析し、薬物療法の治療効果ならびに予後因子として有望なバイオマーカーを検索する。HLAリガンドーム解析によりがん抗原の分離・同定を試みる。3. 免疫チェックポイント阻害薬( ICIs)投与患者の治療効果と腫瘍微小環境(TME)における免疫組織化学染色、末梢血液像との関連性評価ICIsを投与したOSCC患者の生検および切除標本から得られたホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて、各種免疫担当細胞の局在と強度について免疫組織化学染色法で検討する。ICIs投与前後のTMEにおける免疫担当細胞の局在と強度を観察し、ICIsの臨床効果と各種免疫担当細胞の発現、末梢血好中球数/リンパ球数比(NLR)との関連性について検討する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (5件)
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