研究課題/領域番号 |
23H03289
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
井澤 鉄也 同志社大学, スポーツ健康科学部, 教授 (70147495)
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研究分担者 |
高倉 久志 同志社大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (20631914)
土屋 吉史 同志社大学, スポーツ健康科学部, 助教 (20795679)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 脂肪組織由来幹細胞 / 細胞外マトリックス / 運動トレーニング / 高脂肪食摂取 / プロテオミクス / エクソソーム |
研究実績の概要 |
運動トレーニング (EX) は脂肪細胞の小型化や脂肪細胞の脂肪分解の促進,アディポカインの調節不全と炎症を改善する脂肪組織リモデリングを引き起こし,肥満および肥満関連疾患を予防する。 しかし,このEXによる脂肪組織リモデリングには脂肪由来幹細胞(ADSC)の脂肪分化能低下を伴っている。本研究では,脂肪組織のcellularityと代謝ホメオスタシスの維持に不可欠なADSCの活性化という観点から,ADSCを取り囲むニッチ(生体内微小環境)の細胞外マトリックス(ECM)のダイナミクスに着目し,EXによるADSCの脂肪分化能低下を引き起こすメカニズムを追求するものである。 2023年度は,初めに高脂肪食摂取肥満とEXを課したラットの内臓脂肪組織と皮下脂肪組織から脱細胞処理脂肪組織(DAT)を作成し,その懸濁液をパウダーにした後,プロテオーム解析を行った。その結果,各介入に特異的なECM構成タンパク質がDATに含まれていることが明らかになった。さらに,DATマトリックスハイドロゲル(DAT-MHG)を作製し,通常食摂取非運動群のADSCを脂肪細胞に分化させた。分化した脂肪細胞の表現型ならびにアディポカイン分泌能,DNAメチル化などの評価は次年度に計画されている。こうした研究に並行して,EXによるADSCの脂肪分化能低下を引き起こすシグナルの候補として,ECM中に放出されるADSC由来のエクソソームに着目し, in vitroの基盤的な研究を行った。その結果,EX群のADSC由来エクソソームは3T3L-1 脂肪細胞の分化を抑制し,miRNAアレイを行ったところ,EX群のADSC由来エクソソーム内には,EX群に特異的に発現する 3 つのmiRNA (miR-323-5p、miR-874-3p、miR-433-3p) を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテオーム解析の結果,高脂肪食摂取やEXは,それぞれの介入に特異的なECM構成タンパク質を発現させる結果を得た。この結果は,これまでに報告されている断片的な結果の包括的解釈をもたらす可能性を与える重要な知見である。一方,DAT-MHGにおいてADSCが一定の分化能を示す結果を得られるまでに,DAT-MHGの作成条件や分化条件の設定に時間を要した。そのため, DAT-HMG 内のECM分子群の免疫染色によるECM分子や構造(3D計測)の違いを評価する実験には遅れが生じた。しかし,DAT-MHGを用いた実験と並行して,EXによるADSCの脂肪分化能低下を引き起こすメカニズムをin vitroで詳細に追及できた。この成果は2024年7月に開催される国際運動生化学会議において発表予定であるとともに,現在原著論文の執筆中である。 ECMは細胞からのシグナルを受けるとともに,シグナル群の濃度勾配を保つ役割がある。そこで,ECM中に放出されるシグナルの候補として,ADSCに由来するエクソソームに着目した実験も推進させた。得られた成果は,上述した成果と同様,2024年7月に行われる国際運動生化学会議にて発表予定で,国際誌投稿に向けて原著論文を執筆中である。 以上,当初計画書に予定していたECM分子や構造(3D計測)の評価については,次年度以降の課題となった。しかし,その他の計画は概ね順調に推移するとともに,当初計画にはなかったものの,次年度以降の本研究を大きく進展させる研究結果も得られた。したがって,研究全体を俯瞰すると概ね順調に推移したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,当初計画通りDAT-MHGにおいてADSCを脂肪細胞に分化させた細胞の表現型ならびにアディポカイン分泌能,DNAメチル化などの評価を実施する。具体的には,ECMのセンサーであるインテグリンと下流のシグナル伝達系,脂肪分化制御シグナルを中心にmRNAやタンパク質の発現を解析する。加えて,異なるECMからのシグナルが,DNAのメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックなパターン形成の違いとしてADSCに記憶されることを確かめるため,抗メチル化シトシン抗体による濃縮と高速シーケンス解析(illumina 社製)を組み合わせ, DNAメチル化の群間比較を行う。さらに,候補 DNA 画分をクロマチン免疫沈降で濃縮し,特定の遺伝子領域をRT-PCRで定量する(ヒストン修飾解析)ことも予定している。 また,2025年度研究に向けて,各介入特異的に変動したECM構成タンパク質(群)で人工的なECM環境のマトリックスハイドロゲル作製の準備も進めていく予定である。
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