研究課題/領域番号 |
23H03314
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
石川 智久 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10201914)
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研究分担者 |
山口 桃生 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (30804819)
原 幸大 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (80729343)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | NASH / 肝星細胞 / 液-液相分離 |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)から線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)への進行には、何らかのスイッチが存在し、その同定はNASHの予防・治療法への応用に繋がる。この進行には、コラーゲン分泌型へと形質転換する肝星細胞(HSC)の活性化が必須である。申請者らはこれまでに、炎症物質PGE2のHSC活性化に対する作用がcaffeineによって促進から抑制へと反転すること、この反転に伴いHSC活性化時に減少する非膜型細胞小器官p62液滴が増加に転じることを見出している。そこで、p62液滴形成・分解がNASH進行スイッチとして働くという仮説を立て、本研究ではこの証明を目的とした。 マウスより単離した静止型HSCにおいて、p62が細胞質全体に散在して発現していることを免疫染色により確認した。Caffeineを処置したHSCでは、細胞質にp62の凝集体の形成が観察され、さらにcaffeineとPGE2を共処置したHSCでは、p62の凝集体に加えてリン酸化p62の凝集体が観察された。一方、HSC のRNA-seq解析により、PGE2はcaffeine存在下ではNrf2標的遺伝子を増加させるのに対し、非存在下ではNFκB標的遺伝子を増加させるという明確な違いが認められた。すなわち、PGE2により活性化されるシグナル伝達経路は、caffeineの有無で切り替わり、PGE2はcaffeine存在下ではKeap1-Nrf2シグナルを活性化してHSCの活性化を抑制し、caffeine非存在下ではNFκBシグナルを活性化してHSCの活性化を導くことが示唆された。 以上のことから、caffeineによるPGE2作用の反転は、p62液滴が形成されてシグナル伝達経路がNFκBシグナルからKeap1-Nrf2シグナルへと切り替わり、HSC活性化が抑制されることで生じる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
動物実験施設において実験動物への原虫感染被害が生じ、実験動物の原虫駆除等のために一時動物実験を中断せざるを得なくなったため。 また、分担者の出産育児により、研究計画に遅れが生じたため。
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今後の研究の推進方策 |
p62の発現はHSCの表現型と相関し、静止型HSCでは高発現、活性化に伴い発現低下、caffeine処置により発現が増加することを見出した。そこで、caffeineによるp62発現増加の機序を解析することにより、p62発現制御機構を解明する。まず、p62発現と液滴形成との相関を、p62を過剰発現もしくはノックダウンさせたHSCを用いて検証する。さらに、caffeineとPGE2のp62液滴形成及びHSC活性化抑制に対して、液-液相分離により形成される液滴を溶解する1,6-ヘキサンジオール処置が及ぼす効果を検証する。 また、caffeineにより、PGE2のシグナル伝達経路がNFκBシグナルからKeap1-Nrf2シグナルへとスイッチすることを検証する。まず、NFκBシグナル及びNrf2の転写活性を指標にして、レポーターアッセイによる評価を行う。また、HSC活性化時に転写が亢進する複数の転写因子についても検討を行い、Caffeineの有無で切り替わるシグナルが他にも存在する可能性を調べる。仮説通り、NFκBシグナルからKeap1-Nrf2シグナルへのスイッチが確認されたら、各経路の阻害薬及びp62のsiRNAを用いることで、PGE2単独及びPGE2とcaffeine併用処置のHSC表現型に対する作用のシグナル伝達経路を同定し、HSC活性化に対するPGE2の作用が反転する機序の全容を解明する。
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