研究課題
本研究では、抑うつ状態からの自発的治癒に関わる神経回路機構を明らかにすることを第一の目的とする。また、慢性ストレスや慢性痛により、自発的治癒に関わる神経回路機構が破綻することで、うつ病の発症につながるか否かを明らかにすることを第二の目的とする。リポポリサッカライド(LPS)を投与されたマウスが、LPS投与1日後に抑うつ様症状を示し、投与3日後には自然治癒することから、LPSモデルを用いて抑うつ状態からの自発的治癒に関わる神経機構の解明に取り組んだ。FosTRAP2:tdTomatoマウス(4-ヒドロキシタモキシフェン投与により、特定の時間枠で活動亢進した神経細胞に特異的に赤色蛍光タンパク質tdTomatoが発現するマウス)を用いて、LPS投与による抑うつ状態からの自発的治癒過程で活動が亢進する脳部位を調べた。その結果、LPS投与1日後において、内側前頭前野下辺縁皮質領域(IL)、背側海馬CA1領域、扁桃体内側核(MeA)および基底内側核(BMA)などの脳部位の神経活動が亢進することを明らかにした。これらのうち、IL、CA1およびBMAの神経活動の亢進は、レゾルビンD2(RvD2)の受容体であるGPR18の阻害薬の皮下投与により抑制されたが、MeAの神経活動亢進は抑制されなかった。また、IL、背側海馬またはBMA内RvD2局所投与により、LPSモデルの抑うつ様症状は抑制された。さらに、GPR18阻害薬の反復ILまたは背側海馬内局所投与により、LPS誘発抑うつ様症状の自発的治癒が阻害されることを明らかにした。これらの結果から、抑うつ状態からの自発的治癒にGPR18活性化を介したIL、背側海馬CA1およびBMAの神経活動亢進が関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、GPR18活性化を介した抑うつ状態からの自発的治癒に関与する脳部位を複数見出すことができたため。
2024年度は、まずGPR18阻害薬の反復BMA内投与がLPS誘発抑うつ様症状の自発的治癒に及ぼす影響を調べる。また、抑うつ様症状の自発的治癒とIL、BMA、CA1の神経活動上昇の因果関係を明らかにするために、これらの脳部位の神経活動を薬理学的または化学遺伝学的に阻害することで、LPS誘発抑うつ様症状からの自発的治癒が阻害されるかを調べる。さらに、FosTRAP2:tdTomatoマウスと神経トレーサーを用いた組織学的解析により、IL、BMAまたはCA1へ出入力するいずれの神経回路が、GPR18活性化を介したLPS誘発抑うつ様症状の自発的治癒に関わるかを明らかにする。加えて、抑うつ様症状の自発的治癒に関わる神経回路機構の破綻が、慢性痛モデルや慢性ストレスモデルにおけるうつ病様症状の発現に寄与するかを明らかにする。
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