研究課題
運動は疾患の予防・治療に有効であるためその効果の仕組みを明確にすることは重要である。本研究では、末梢臓器と脳の連絡路である自律神経の機能に着目して研究を行い、近年報告されている骨格筋収縮によって血中に放出されるマイオカインによる自律神経制御機構の解明を目的とした。自律神経系は、交感神経と副交感(迷走)神経から構成され、求心路(末梢臓器から脳への経路)と遠心路(脳から末梢臓器への経路)として神経路が存在することから、マイオカインであるirisinによる迷走神経求心路作用が基軸となって脳から自律神経遠心路への作用があるか否か解析した。その結果、麻酔下マウスの迷走神経求心路を計測してirisinを静脈内投与すると活性化された。また、マウス腹腔内へのirisin投与によって摂食量が減少した。さらに、irisin静脈内投与は遠心路交感神経活動褐色脂肪枝と腎臓枝を増大させ、血圧も上昇させた。また迷走神経切断マウスではirisinによる遠心路交感神経興奮作用が消失した。末梢臓器から脳への迷走神経求心路を確認するために、神経トレーサーを胃や十二指腸に注入したマウスの迷走神経節(NDG)では、トレーサー陽性細胞が確認された。またマウスへのirisin腹腔内投与やトレッドミル運動を行うと、免疫組織化学染色法によってNDGでの活性化が確認された。さらに、NDGから脳・延髄への投射先である延髄孤束核でのc-fos陽性細胞数が、irisin腹腔内投与によって確認された。
2: おおむね順調に進展している
運動によって増えるマイカインであるirisinが迷走神経求心路を作用点として、脳を経由して自律神経遠心路を調節する新たな運動効果機序の可能性を明確にできた。今後は細胞内シグナル経路と詳細な神経経路について解析を行っていく。
運動ホルモンであるirisinによる迷走神経求心路活性化作用機序を解析するために、NDG特異的遺伝子欠損マウスでの解析などを行う。さらに、脳・延髄内での遠心路交感神経活性化作用に関与する神経経路を明確にする。
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