研究課題
本研究では,マイクロ流体デバイスを用いた培養神経回路の構造制御技術を先端バイオ計測技術と融合させることにより,生物の脳がバイオ素子に基づいて実現する情報処理をボトムアップ的に解析するための新しい実験系を創成することを目指している.初年度には,500細胞程度から構成される大規模培養神経回路を構築し,リザバーコンピューティングの枠組みを用いて,音声信号から手書き文字を生成する感覚運動制御タスクを実装し,刺激に応答して現れる大規模培養神経回路の神経ダイナミクスの特性と運動信号生成タスクにおける情報処理性能の関係について調べた.先行研究で用いていた100細胞程度の小規模回路と,今回新たに作製した大規模回路を比較したところ,小規模回路では刺激によって神経回路に誘起される過渡応答がすぐに減衰し,入力音声信号に対応した出力を生成するための運動信号が,生成されなかった.一方,大規模回路では過渡応答が十分に長く続き,出力信号を安定に生成できることが分かった.続いて,生成する時系列信号とリザバー計算性能の関係を調べたところ,信号持続時間が平均3.69秒,入力刺激を受けてから出力信号を生成し始めるまでの遅延時間が平均0.05秒の時に平均二乗誤差が最小化されることが分かった.実際,大規模培養神経回路の過渡応答は4秒程度あることから,この結果は教師信号の持続時間がその時間に相当するときに性能が最も高くなることを示している.
2: おおむね順調に進展している
大規模な培養神経回路をパターニングするためのマイクロ流体デバイスを開発し,その刺激応答特性をリザバーコンピューティングの枠組みで解析する実験が予定通りに進んでいる.高密度多点電極アレイ上の培養神経回路に同様の実験を実装するための条件出しも進んでいる.
高密度多点電極アレイ上の培養神経回路の刺激応答特性をリザバーコンピューティングで解析すること,およびリザバー層と出力層の荷重値をオンラインでリアルタイムに最適化するためのコーディングを進める.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 16件、 招待講演 6件)
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