研究課題/領域番号 |
23H03520
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
茂木 信宏 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (20507818)
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研究分担者 |
足立 光司 気象庁気象研究所, 全球大気海洋研究部, 主任研究官 (90630814)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | エアロゾル / 鉱物ダスト / 光散乱 / 海洋微粒子 |
研究実績の概要 |
本年度は、液相中または気相中に分散する微粒子の中から鉱物ダスト粒子を選択的に検出して定量できるようにするために、これまでに独自の汎用粒子分析法として開発をすすめてきた「複素散乱振幅センシング法」に対して以下の3点の改良を施した。(1)散乱波を励起する光源として、従来のHeNeレーザーの代わりにスーパールミネッセントダイオード(SLD)を採用した。この変更により、光学系のエタロンフリンジに起因すると思われる信号のノイズが大きく低減した。(2)直交する2つの偏光成分ごとに前方散乱波の複素散乱振幅を検出する光学系・検出器を設計・開発した。この改良により、鉱物ダスト粒子の非球形度の情報を得ることが可能となり、粒子種の判別能力が大きく向上した。(3)前方散乱波の検出と同時に、後方散乱波を低コヒーレンスマイケルソン干渉計で検出するシステムを開発した。このシステムにより、ビーム中を横断する粒子の光軸方向の位置を±10マイクロメートルの精度で決定することが可能となった。この技術により、各偏光の複素散乱振幅を±5%の誤差で測定することが可能となった。改良(3)にはコヒーレンス長が数十マイクロメートルでかつ高品質なガウシアンビームを出力できる光源が必要であるが、(1)においてシングルモードファイバー出力のSLDを採用することで実現した。また、改良(2)と(3)を実装するための高感度・低ノイズの光検出器2種を自作し、正常に動作することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、鉱物ダスト粒子を他のエアロゾル化学種と判別する上で鍵となる要素技術である、直交する2偏光成分ごとに複素散乱振幅を測定する技術を実現できた。さらに、当初の計画にはなかった下記2つの大きな技術を創案・実現できた。(1)複素散乱振幅センシング法の測定精度の制限要因となっていたノイズ源のうち、各光学素子を透過するビームと多重反射するビームが互いに干渉することに起因するエタロンフリンジを除外することができた。これは光学素子の厚さに比べてコヒーレンス長が短いSLD光源を用いることで実現できた。この改良により、複素散乱振幅データに基づき未知粒子の形状や屈折率などの物理特性をより高解像度で観測できるようになった。(2)単一粒子からの後方散乱振幅をマイケルソン干渉計で検出する光学系と高感度検出器を創案・開発した。この新技術により、入射光ビームを横断する粒子の光軸に沿う座標を非接触で±10マイクロメートルの精度で把握できるようになった。この技術により、マイクロ流路フローセルを利用することなく粒子を導入できるようになり、液中だけでなく気中粒子の直接測定が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では以下3項目を実施する。 鉱物ダスト粒子を構成するアルミノケイ酸塩鉱物種のうち、コンパクト形状のテクトシリケイトの粒子と、剥片形状をもつフィロシリケイトの粒子と、それ以外の複雑な凝集体形状をもつ酸化鉄等の粒子それぞれについて、粒子質量を分級した気相中粒子の複素散乱振幅の実測データを取得する。鉱物ダスト粒子の鉱物種・粒径ごとの偏光複素散乱振幅の実験値テーブルを作成する。一方、非球形粒子の光散乱理論(離散双極子法)を用いて様々な形状・複素屈折率・体積を持つ非球形粒子の偏光複素散乱振幅の理論値テーブルを作成する。これらの実験値・理論値テーブルをもとに、単一粒子の偏光複素散乱振幅の観測データから鉱物ダスト粒子の判別・鉱物種推定・粒子体積を統計的に推定するアルゴリズムを開発する。そのアルゴリズムを用いて環境試料(大気エアロゾル・降水・海水・アイスコア)中で鉱物ダスト粒子を判別・定量することを試み、電子顕微鏡観察と比較することでその手法を検証する。また、単位時間当たりの粒子カウント頻度を増加させるために、サンプル流速の増加、電子回路の応答速度の増加、データ取得レートの増加のための改良を引き続き試みる。
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