研究課題
現在,植物などから放散する揮発性有機化合物(BVOC)の放出量は,人為的に発生する揮発性有機化合物(AVOC)の放出量より勝っており,今後BVOCの大気環境への影響はますます大きくなると予想される。BVOCの多くは大気中で酸化し他の化合物へと変遷するが,エポキシ化したBVOCは大気粒子に移行し,粒子内の硫酸イオンと反応して硫酸エステルになると考えられる。このような化合物は粒子の外殻を形成し無機化合物や水分を保持して粒子を安定化させたり,オリゴマー化・ポリマー化を通して二次有機粒子への移行を推進すると考えられている。しかし,その実態はほとんど知られておらず,大気環境における硫酸エステルの存在の解析が待たれている。そこで,まず硫酸エステルのようなイオン性化合物の定量を可能にする検出器の開発に着手した。検量線の作成に必要な標準物質が市販されておらず,また硫酸エステルには多くの構造異性体・光学異性体が存在し,一連の化合物の定量が困難だからである。硫酸エステル類の分離分析には,有機溶媒系の溶離液で分離を行う液体クロマトグラフィーを用いるが,有機溶媒系でも機能する電荷検出器を開発した。検出器で得られるクーロン量は試料に含まれるイオンの当量数に基づくことから,検量線を用いずとも直接定量することができる。また,分析には各硫酸エステルの標準試薬が必要となるが,イソプレンを起源とする硫酸エステル化合物を2種類合成した。イソプレンの発生量はBVOC発生量の約1/3を占めると言われる最も放散量の大きなBVOCである。阿蘇の草原などで大気サンプリングや雲水の採取を行った。
2: おおむね順調に進展している
ユニバーサルな定量を可能にする電荷検出器について試作を完了した。ただし理論クーロン量より大きめのシグナルピークが得られがちであり,その原因の究明を行っている。硫酸エステルの合成については多くの異性体の内大気で存在量の大きな2種の化合物について合成物を得た。また草原大気のエアロゾルや雲水を大気試料として得ることができた。
電荷検出器はある程度機能したが,大気試料中の硫酸エステルを本検出器で直接分析できない場合,質量分析器の校正を本電荷検出器で行うなどと修正していきたい。合成物が入手困難な化合物分析のひとつの布石になると考えられる。また草原で採取していた大気試料も森林大気などに拡張していきたい。
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分析化学
巻: 73 ページ: -
Communications Biology
巻: 6 ページ: 1-10
10.1038/s42003-023-05573-9