研究課題/領域番号 |
23H03778
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
迫田 大輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (40588670)
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研究分担者 |
長岡 英気 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 講師 (30526463)
坪子 侑佑 国立医薬品食品衛生研究所, 医療機器部, 主任研究官 (40809399)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 心臓移植 / 体外心臓灌流 / 臓器保存 / 臓器機能評価 |
研究実績の概要 |
ドナー心臓の保存と、移植前にその機能を評価するために行う体外心臓灌流(EVHP)が欧米で注目されている。しかし現在臨床使用されているEVHPの基本使用時間は4時間までとなっており、これは冷保存限界時間と差が無い。加えて、左心房への灌流液流入(=前負荷)が無く、心拍出が無いため血行力学的な心機能評価ができない点が問題となっており、ex vivoにおける心臓の保存と評価の両面において十分な役割を果たしているとは言い難い。申請者は心拍と同期制御した左心室補助人工心臓(LVAD)をEVHPに組込み、左心室の拡張と収縮を補助しながら灌流する独自の”LVAD mode EVHP”を開発し、従来のEVHPを上回る保存効果を示した。本研究ではLVAD modeを更に発展させ、心室の拡張収縮を灌流回路から分離して独立して制御できるシステムを開発することで、大幅な小型化、長時間灌流に伴う溶血の改善を図る。前負荷独立制御システムの開発のための往復ポンプの開発を行った。開発中の往復ポンプを用いた心拍同期制御ソフトウェアの開発及びテストを行った。現状では高心拍数における心拍同期位相の調整が難しいため、アクチュエーターの更なる改良に取組んでいる。開発研究に加え、動物実験においてLVAD mode EVHPを用いた後負荷最適化の検討を行った。心拍出に伴う大動脈圧によって冠動脈灌流量が決定されるが、EVHPではin vivoと類似した大動脈圧を発生させることは難しい。後負荷回路抵抗を改良し、可能な限り大動脈圧波形と類似させることで冠動脈流量の上昇、心機能改善が示唆され、後負荷の最適は心機能保存に重要であることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LVAD modeの小型化開発については概ね順調に進んでいる。本開発によって前負荷がEVHP循環路から独立するため、心臓の動きに調和して前負荷と後負荷のふるまいを機械的に精密に制御する必要性が考えられた。しかしながら、これまでの動物実験にて前負荷に関わらず、後負荷のみを変更しても心機能保存は変わりそうであることが予想されている。後負荷については、心臓の拍動と精密に同期していなくても更なる心機能保存の向上が考えられるため、システム開発については当初の想定よりも簡素に出来ることも考えられる。一方で、前負荷については収縮期開始の瞬間に心筋に負荷がかかるため、可能な限り同期制御が必要となると考えられる。これを往復ポンプで表現する必要があり、現在では心臓収縮の追従性にやや難があるため、アクチュエーターの改良を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前負荷独立システムにおいて、心室内に挿入して心室拡張収縮を表現するためのバルーンが必要であるが構想がまだ固まっていない。バルーンはIABP(大動脈内バルーンパンピング)で使用されているポリウレタンを用いて、左心室または右心室形状に類似して成型する。これについて循環系模擬システム関連企業との連携によりバルーンの最適化を図る。心拍同期大動脈圧発生ソフトウェア開発については、前負荷と後負荷の精密な協調はそれほど重要ではないことが考えられるので、ソフトウェア開発は簡素になると考えられる。 今後はまず装置開発を達成して、従来のLVAD mode EVHPの動物実験結果と同等の保存成績が得られるかの調査が必要となる。左心室バルーンのみ用いてWorking mode及びLVAD modeを過去の実験通りのプロトコルで6時間のEVHPを実施し、従来システムと同等の心機能保存と評価が可能であることを確認する。その後、右心機能の保存や評価の効果についても検討する。右心系の場合は冠静脈洞の灌流液を下大静脈に開放して、右心室にバルーンを挿入する。世界動向として、近年は特にマージナルドナー心臓の移植活用のため、EVHPによる高精度な心機能評価が求められており、保存のみならず、心機能評価についても開発システムの性能をin vivo心機能評価との照合により確認していく。
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