研究課題/領域番号 |
23KF0009
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
大久保 武 茨城大学, 農学部, 教授 (70233070)
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研究分担者 |
AHMADI SADEQULLAH 茨城大学, 農学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | レプチン / 卵胞発育 / ブロイラー |
研究実績の概要 |
令和5年度は、受精卵へのレプチン投与と孵化後のタンパク質給与水準が卵巣の発達に及ぼす影響について検討した。ブロイラーの受精卵に生理的食塩水または5μgのレプチンを卵内注射して孵化したメスヒナに、粗タンパク質17%(低タンパク質飼料)または22%(標準タンパク質飼料)の配合飼料と水を自由摂食させた。そして、卵巣の機能分化が生じる7日齢と28日齢に視床下部、下垂体、卵巣を採取し、卵巣発達に関与する遺伝子のmRNA発現をリアルタイムPCRで解析するとともに、卵巣の形態及び卵胞発育を組織学的に解析した。その結果、卵内レプチン投与の有無に係わらず、標準タンパク質飼料を給与したブロイラーヒナでは低タンパク質飼料を給与したヒナに比べて、卵胞形成に必須な各種のマーカー遺伝子のmRNA発現が抑制されることが明らかとなった。また、卵内レプチン投与に加えて低タンパク質飼料を与えた7日齢のヒナにおいて、卵巣の卵胞発育マーカーのmRNA発現に影響を与えなかったが、同ヒナの下垂体における黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)のベータサブユニットの発現を増加させることを見出した。一方で、標準タンパク質飼料を給与したヒナでは、LHとFSHのベータサブユニットの発現増加は認められなかった。7日齢のニワトリでは一時的に血中LH濃度が上昇しており(Sharp et al., J. Endocrinol. 67: 211-223. 1975)、性腺の発達との関連が示唆される。そして今回の結果は飼料中の粗タンパク質量に依存するものの、受精卵へのレプチン投与は7日齢のヒナで認められている生理的はLH上昇を増強する可能性を示すものである。さらに、低タンパク質飼料を給与された28日齢のヒナでは、卵内レプチン投与を行った群での卵巣内の一次卵胞の割合が増加することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生初期の卵内レプチン投与と孵化後の給与飼料がブロイラー雌ヒナの卵巣発育に与える影響を解析した。その結果、卵内レプチン投与の卵胞発育に対する効果は限定的であったが、孵化後の給与飼料中のタンパク質含量は卵巣発達に強く影響することを明らかにした。採卵鶏では卵内レプチン投与が、初回排卵を早期化することが示されている。本研究では 卵内レプチン投与と低タンパク質飼料給与の組み合わせにより、7日齢のヒナ下垂体の性腺刺激ホルモン遺伝子発現が増加し、同様の処置は28日齢のヒナ卵巣における一次卵胞の数を増加させた。これらの結果は孵化後1週間で認められた下垂体の性腺刺激ホルモン発現の増加に起因する可能性を示すものである。また標準タンパク質給与では、卵内レプチン投与の有無に係わらず、卵巣発達マーカーの発現が低下することを認めている。このことは、卵内レプチン及び給餌飼料ブロイラーの性成熟後の産卵能力に影響を与える可能性がありため孵化直後からの飼養管理が重要であることを示している。そして、これらの成果は学術論文として取りまとめ公表したが、初回排卵日や産卵率など、実際の産卵成績に対する卵内レプチン及び給餌飼料の効果の検討ができなかった。そのため、ブロイラーヒナで認められた影響が性成熟後にも及ぶのかについての検討は次年度の課題である。 以上のことから、令和5年度の研究は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はブロイラー種鶏の受精卵への卵内レプチン投与と飼養試験を実施する。飼養試験では、前年度の結果を踏まえて4週間の低タンパク質飼料と標準タンパク質飼料を給与し、その後は粗タンパク質量と代謝エネルギー量を調整した飼料に切り替えて飼育し、産卵に係る各種要因について解析する。また定期的に血液を採取し、血中エストロゲン及び性腺刺激ホルモン濃度を測定する。また実験終了時には卵胞の大きさごとに採材し、ステロイドホルモン合成に係る酵素等のmRNA発現などを解析するとともに、卵巣の異常発達等の有無について形態学的な観察を実施する。それらの結果を全て統合して、ブロイラー種鶏の育成と維持に適切な飼養管理方法を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会参加と情報収集ができなかったため、旅費が執行できなかった事に加え、長期飼育試験が未実施に終わったため、残額が発生した。次年度は長期の飼育試験に必要な受精卵の調達見込みが立っているため、前年度の残額を優先的に使用するとともに、執拗な研究資材を調達し、最終年度の研究を鋭意進めていく予定である。
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