本研究では,自然言語処理・深層学習の専門家であるSzabo氏と,認知言語学・構文文法の専門家である申請者とが,大規模コーパスを用いて,ハンガリー語,英語,日本語等の否定表現を対照的に研究することで,否定表現の振る舞いを記述し,歴史的な極性の反転や変化の考察を行った。Szabo氏は主に,ハンガリー語のデータの構築と,先行研究の精査,論文の主な執筆を行った。受け入れ研究者は,日本語のデータの構築と日本語とハンガリー語の現象の比較結果を言語学的に論じる作業を担当した。 本共同研究では,日本語の「やばい」とハンガリー語のdurvaという自己対義語の対照研究を,大規模コーパスを用いて進めた。さらに,コーパスを用いての,類似した意味拡張(驚異的な用法の獲得,価値の反転,価値の中立化)の実態の調査を拡張し,自己対義語(enantiosemy)の形成プロセスや価値反転の動機づけなどに関する研究を進めた。これらの研究は,2日本語用論学会第25回大会において発表されると同時に,大会後のプロシーディングズに論文の掲載がなされた。 本研究の意義は,個別の語彙の研究にとどまらず,自己対義語という通言語的に珍しい現象を扱いながら,ハンガリー語と日本語の語彙の比較研究という新しい分野を開拓することを試みた点である。さらに,自然言語処理,機械学習,認知言語学・構文文法,談話等を含めた学際的な観点から実証的な研究手法の提示を試みた点も成果と言える。
|