研究課題/領域番号 |
23KF0080
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
森 孝雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 副センター長 (90354430)
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研究分担者 |
YUN FEI 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 2次元材料 / 熱電薄膜 / フォノン |
研究実績の概要 |
本研究では、2次元材料の電子状態やフォノンなどの特徴を活かして、高性能な熱電的性質を発掘することを目的としている。 まずはじめに、層の相互作用がどのように新しい振動状態を導入するのかを調べ、CrB2 において、特定の欠陥により新しいフォノン状態が導入されることを発見した。CrB2 は、珍しい反強磁性特性を持つ重元素と軽元素の組み合わせの化合物であり、振動構造を調査し、そのメカニズムを理解するために力定数モデルのコードを自開発した。これにより、CrB2 の表面フォノンとバルクフォノン特性の違いの基本的なメカニズムを明らかにすることができた。また、高分解能電子エネルギー損失分光法(HREELS) によって、CrB2 の表面フォノンの測定を行うことによって、新たな異常な振動状態が見つかった。これらは、バルクフォノンとバンド軟化に基づく従来の理論では説明できないもので、表面欠陥と磁性マグノン-フォノン結合の組み合わせを使用する新しい 3 フォノンモデルを新規に導入することで説明できた。論文は現在準備中。 CrB2 上への Si 蒸着も実行し、室温で量子スピンホール絶縁体になると予測されるダンベル状のシリセン構造の形成が達成されたことがわかった。フォノン計算により、構造との整合性が実証できた。 また、理論的な知見より興味深い挙動が期待される新規な2次元系として、グラフェンで覆われた NbC 表面への Sn の堆積も実行され、この研究では Sn-グラフェン-NbC ヘテロ構造のフォノン分散の実験的測定が得られた。さらに新規系として、Si (111) 上の数層 Sn、SiC 上のグラフェン、および SiC 上の Sn-グラフェンの堆積に成功したところである。今後は、これらの新規な2次元材料の物性解明を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 年目では、さまざまな新しい2次元材料薄膜の研究を開始して、興味深い知見が得られており、進捗は良好である。 CrB2 系の反強磁性の性質が表面振動状態に及ぼす影響を説明するために、独自の3フォノンモデルを構築して、現象の理解に成功した。これまでのところ、今回が、CrB2 または他の AlB2 系材料系において、表面フォノン構造や反強磁性が及ぼす作用を初めて解明した例と考えられ、顕著な成果である。 さらに、理論的な知見より、興味深い挙動が期待された、新規な2次元材料創製もいくつか進めた。CrB2 上への Si 蒸着も実行し、ダンベル状のシリセン構造の形成が達成できることが分かった。また、グラフェンで覆われた NbC 表面への Sn 蒸着も実行され、独特のヘテロ構造が得られた。フォノンに関する、独自の計算や高分解能電子エネルギー損失分光法(HREELS)による測定も順調に開始している。さらに新規系として、Si (111) 上の数層 Sn、SiC 上のグラフェン、および SiC 上の Sn-グラフェンの堆積に成功したところであり、研究は精力的に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ、研究のほとんどは、熱伝導率(すなわち、フォノン)に関与する基本的なメカニズムの深い理解に加えて、さまざまな薄膜やヘテロ構造システムの作製に焦点を当てて来た。2年目は、1年目で得られた成果を進展させて、CrB2 上への Si 蒸着系、グラフェンで覆われた NbC 表面への Sn 蒸着系、のフォノン物性の解明だけでなく、さらに新規系として、Si (111) 上の数層 Sn、SiC 上のグラフェン、および SiC 上の Sn-グラフェンの堆積に成功した系のフォノンに関する測定を開始する。 こうした成果に関して、現在執筆中の3つの論文を完成させて発表を進める。 また、新たな試みとして、こうした2次元材料薄膜系の面内の熱伝導率を計測できるような、3オメガ測定に関する測定系の構築に重点を置いた作業が行われる予定である。薄膜の面内の熱伝導率の計測は、熱電性能指数を求めるために必要で重要な技術である。従来の3オメガ技術をさらに改良するにはナノ加工が必要であり、さまざまなエッチングおよび加工技術の活用して、測定結果と精度を向上させるようなプローブの設計および測定ステージの設計および作製を進める予定である。また、プローブと3オメガ測定のシミュレーションも活用して、本研究で開発した薄膜の熱電材料としての応用のためのより適切な評価を可能にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、外国での国際会議での発表を予定していたが、オリジナリティーの高い顕著な成果が出ており、論文執筆作業がもう少し進んでからがより安全なタイミングと判断され、次年度に開催される最大の国際熱電学会である、ICT/ECT2024への発表を新たにするために、必要な旅費、参加費を繰り越す必要がある。
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