研究課題/領域番号 |
23KF0195
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井手上 敏也 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90757014)
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研究分担者 |
AHAD ABDUL 東京大学, 物性研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2023-11-15 – 2026-03-31
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キーワード | 2次元物質 / 対称性制御 / 量子幾何 |
研究実績の概要 |
2023年11月に外国人特別研究員を受け入れて研究を開始し、2次元結晶の劈開方法や転写方法、電子線描画装置を用いたデバイス作製技術とデバイスの輸送特性や顕微環境下での微小試料の光学特性測定法の習得を行った。その後、ナノ物質の対称性制御による物性開拓手法を、層状磁性体やその界面に応用することで量子幾何現象の探索を行った。 特に、反強磁性秩序の発現と同時に空間反転対称性の破れが実現するファンデルワールス磁性体MnPSe3の対称性制御と光起電力効果の研究に取り組んだ。劈開したフレーク試料をナノステップ構造に転写することで一軸性歪みが印加できる対称性制御の手法を用いて、歪み印加したMnPSe3試料を作製し、光電流測定を行った。現状ではゼロバイアス光電流の測定には至っていないが、今後、歪みの大きさを変化させたり、ゲート電圧を印加した状況でキャリア数を変化させながら光電流応答の変化を調べていくことで、原子層磁性体における新奇光起電力応答の観測を目指す。加えて、対称性の異なる2次元物質ヘテロ界面を作製することで対称性を制御する手法をMnPSe3に適応して、MnPSe3と黒リンとのヘテロ界面を作製した。こちらも今後詳細な光電流応答を測定してく予定である。 また、量子幾何を反映した輸送現象の観測を目指して、層状磁性体Fe5GeTe2やCo置換Fe5GeTe2の劈開膜膜デバイスを作製し、評価を行った。特にCo置換Fe5GeTe2では面内強磁性かつ面間反強磁性的振る舞いが観測された。今後、薄膜化によって対称性を低下させることで、反強磁性秩序の発現と同時に空間反転対称性の破れが生じるような原子層反強磁性金属の実現と量子幾何を反映した輸送特性の観測を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画にあった、ナノステップ構造へ原子層物質劈開試料を転写する方法を利用した層状反強磁性体への一軸性歪み印加と、そのようにして対称性を制御した試料における光起電力効果測定実験を行ったことに加え、類似の対称性制御を実現することができる原子層磁性体/原子層半導体ヘテロ界面デバイスの作製まで研究を進めることができた。 また、予定していた量子幾何を反映した光応答の探索だけでなく、量子幾何由来の輸送現象の観測を目指して、層状磁性体Fe5GeTe2やCo置換したFe5GeTe2のデバイス作製と評価を行った。その結果、異常ホール効果の振る舞いから、Co置換したFe5GeTe2試料において、面内は強磁性的で面間は反強磁性的にスピンが配列している様子が示唆され、この物質が薄膜化によって対称性を低下させることで、反強磁性秩序の発現と同時に空間反転対称性の破れが実現するような原子層反強磁性金属になり得る可能性を見出した。反強磁性秩序の発現と同時に空間反転対称性の破れが実現するような磁性体は、これまで知られているものは絶縁体や半導体が多く、金属であるものは例が限られていた。このような対称性を持つ反強磁性体では、従来からよく研究されているベリー曲率由来の現象は抑えられ、まだ報告例の少ない量子計量由来の現象の発現が期待されているため、この物質は量子幾何を反映した新奇輸送現象を探索する新たな物質になり得る。今後、研究のより一層の加速が望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
層状磁性体の薄膜化や歪み印加、ヘテロ界面作製等による対称性制御と量子幾何現象の研究を推進する。 一軸性歪みを印加したMnPSe3に関しては、(ナノステップ構造の高さを変化させる、あるいはピエゾ素子からなる歪みセルを用いて電場を印加することで歪み印加を行うといった手法を用いることで)歪みの大きさを変化させたり、ゲート電圧を印加した状況でキャリア数を変化させながら光電流応答の変化を調べていくことで、原子層磁性体における新奇光起電力応答の観測を目指す。対称性を制御したMnPSe3と黒リンの界面デバイスに関しても(光電流の方位依存性や温度依存性、照射光偏光角度依存性等の)詳細な光電流応答を測定し、磁性体における量子幾何を反映した光電流応答の観測と微視的機構解明を試みる。また、類似の対称性の低下が生じていると期待される層状ミスフィット磁性体といった新しい物質にも着目し、磁性体における量子幾何を反映した光学応答の開拓を進める。 さらに、量子幾何を反映した輸送特性の探索も進める。特に、Co置換Fe5GeTe2を薄膜化して対称性を低下させ、反強磁性秩序の発現と同時に空間反転対称性の破れが生じるような原子層反強磁性金属の実現して、量子幾何を反映した特徴的非線形輸送現象の観測を試みる。加えて、Coの置換量を変化させたFe5GeTe2試料を同様に薄膜デバイス化し、輸送特性を測定することで、磁性や対称性および量子幾何を反映した輸送特性がどのように変化していくかも調べる。
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