研究課題
北極海は、全海洋の3%の海域面積にも関わらず、海洋全体のCO2 吸収の約10%を担っている重要な吸収源である。しかし、北極などの寒冷地では、地球温暖化による環境変化が特に顕在化している。そのため、今後の北極海のCO2 吸収の変化は全球的な炭素循環を考える上で重要である。 正確な評価のためには、最新の観測データを取得し、炭素循環について定量的に評価することが必要となる。そこで本研究では、2021年に行われたJAMSTEC海洋地球観測船「みらい」による北極航海の海洋観測データを解析し、北極海太平洋セクターにおける海洋表面二酸化炭素分圧(pCO2)の季節変化および変化要因の評価を行った。本研究では、Tozawa et al. (2022)の手法を北極海に適用できるように改良し、冬から夏にかけての水温変化・生物活動・淡水流入によるpCO2の変化量を定量的に評価することを可能にした。また、海氷サンプルの炭酸系成分のデータおよび海洋観測データより、淡水の起源(海氷融解水・融雪水・河川水)によってpCO2に与える影響が異なることを明らかにした。特に、これまで雪を含む低塩分の氷は海洋表面pCO2を大きく低下させると考えられていたが、高塩分の氷と比べて、炭酸系成分の希釈に対する寄与は大きいものの、pCO2低下に与える影響は小さい可能性があるということが示唆された。そして、この各淡水の影響の違いを反映させることで、淡水流入によるpCO2の変化量について、より正確な評価を行うことを可能にした。これらの結果は、pCO2の将来変化を予測する上で、淡水流入量の変化だけでなく、その組成の変化にも注目していく必要があることを示している。以上の研究成果を国内外の学会および研究集会で発表した。また、論文をJournal of Geophysical Research: Oceanに投稿し、現在査読中である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究奨励費を用いて、日本海洋学会2023年度秋季大会、ドイツ・ブレーメン大学で行われたNew Frontiers in Environmental Scienceという国際ワークショップに参加し、研究発表を行った。また、ドイツ・Alfred Wegener Instituteを訪問し、極域海洋化学の専門家の研究者の方々とミーティングを行うことができた。これらの活動により、自身の研究内容を深めることでき、その結果、当初の計画よりも早い段階で論文を提出することができた。また、当初の研究計画の内容を早い段階で論文化することができたことにより、同様のデータを用いた追加の研究にも着手することができている。
現在、査読中の「北極海太平洋セクターにおける二酸化炭素分圧の季節変化の定量的評価」に関する論文について、修正を行なっていく。また、当初の研究計画よりも早い段階で論文化することができたので、追加の研究として「北極海太平洋セクターの淡水分布」についての研究を行うことを計画している。2021年の北極海太平洋セクターでは、例年と比べて低塩分であったことが明らかになっている。今後は、この低塩分の原因について、酸素安定同位体比やアルカリ度といった化学成分を用いて検証する。また、低塩分の原因の一つである淡水の分布や淡水中の化学成分について明らかにすることにより、炭酸系成分と淡水の関係についても追加の検証を行なっていく。これにより、北極海の二酸化炭素吸収量の将来予測の精度向上に貢献する知見を得ることを目指す。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Progress in Oceanography
巻: 214 ページ: 103023~103023
10.1016/j.pocean.2023.103023
巻: 218 ページ: 103117~103117
10.1016/j.pocean.2023.103117