研究課題/領域番号 |
23KJ0021
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 尚郁 北海道大学, 工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 2018年北海道胆振東部地震 / 強震動 / 地下構造 / 傾斜基盤 / 自己相関関数 / 数値実験 |
研究実績の概要 |
地震動を予測するためには,地下構造の物性値や層境界面の深さ,不整形に関する情報は不可欠である.近年では,地下の層境界面を水平と仮定し,単一観測点で観測された特定の震源域の地震記録の自己相関関数を用いて,直達波と反射波が到達するまでの時間差を推定し,地下構造の推定がなされている.しかし,地下の層境界面が水平でない場合,震源位置によって時間差が変化し,地下構造を推定することが困難になる.そこで,本研究では,従来の地震記録の自己相関関数を用いた解析手法に,時間差の変化に関する計算処理を組み込むことで,層境界面の不整形を含めた地下構造の推定手法の確立を目指す. 2023年度は,既往の研究成果で複雑な地下構造が推定され,対象地域としている北海道勇払平野で,浅部の地下構造データの取得を目的とした観測と,地震記録の自己相関関数から判断される時間差の変化を検討することを目的とした数値実験を行った.現地観測のデータ解析結果から,丘陵地から平野部にかけて,浅部の地下構造の変化が判断された.数値実験では,仮想の地下構造モデルを用いて,平面波入射と点震源をそれぞれ仮定し,3次元有限差分法で作成した地震波形の自己相関関数を用いた.一様に傾斜する層境界面に平面波を入射させた場合,層境界面の傾斜が大きくなる程,入射角に対する時間差の変化が大きくなった.また,その時間差の変化を用いて,層境界面の傾斜と深さの推定が可能であった.点震源モデルを仮定した場合も,震源位置によって時間差が変化した.また,検討過程で新たに震源の放射特性が自己相関関数の時間差の位置を示す波の形状に影響することが確認されたため,追加検討を行う. 2024年度は,上述の追加検討に加え,観測結果と数値実験の結果を基に,実際に観測された2018年北海道胆振東部地震の余震記録から対象地域の地下構造の深さと不整形に関する推定を試みる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
観測データの収集と基礎解析,数値実験による検討に関しては進展,進行している.この数値実験を通して,仮定した震源による自己相関関数の形状への影響に関する新たな知見が得られたため,検討項目に追加した.そのため,数値実験による検討量は増えたが,得られた知見を適切に処理することで,本研究で提案していた手法の発展に期待できると考えられる.2024年度は,追加検討と手法の改良を行う.さらに,改良した手法を用いて,観測記録への適用と地下構造の層境界面の傾斜と深さに関する構造推定を実施する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,地震記録の自己相関関数を用いて,地下の層境界面の不整形と深さに関する3次元地下構造の推定手法の検討を中心に行っている.現段階の結果として,自己相関関数から得られる直達波と反射波が到達するまでの時間差と地震波の伝播経路から,2次元の一様な傾斜を有する構造の推定が可能になりつつある.現時点では,数値実験を用いて,仮定した震源の放射特性による自己相関関数の形状への影響に関する検討を実施している.この結果を踏まえて,時間差と自己相関関数の形状の両方を評価できる構造推定手法へと発展させる.また,上述の検討の終了後には,実際の地下構造に近いと考えられる不整形な層境界面を有する地下構造に関して,引き続き数値実験を実施する. 得られた数値実験の検討結果を基に,実際の地震記録の自己相関関数を用いて,層境界面の不整形と深さに関する3次元地下構造推定へと繋げる.さらに,2023年度に実施した現地観測で得られたデータから,浅部の地下構造モデルを作成し,自己相関関数による解析で推定した3次元地下構造と連結する.推定した構造は,波形シミュレーションにより,観測波形や既往の構造を用いた計算波形と比較することで,妥当性を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
現地観測の人員が予定よりも減り,観測自体が予定よりも早く終了したため,旅費が削減された.また,物価高騰に伴い,当初予定していた数値計算用のメモリーを購入することができず,代替品のメモリーを購入し,それにかかる経費が少し削減された.残額は,2024年度の学会発表用の渡航費,論文投稿費と数値計算結果の保存用ストレージの費用に充てる.
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