リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)は、生体内で主に細胞膜に存在するリゾリン脂質の一種である。LPEは神経突起の伸長作用や抗炎症作用、細胞内カルシウム濃度を上昇させるなど、脂質メディエーターとして機能すると考えられている。また、LPEは代謝機能不全関連脂肪性肝疾患(MASH)や2型糖尿病などのバイオマーカーとして知られているが、LPEが生活習慣病の病態に与える影響については不明な点が多い。 本研究課題ではまず、生体試料中のLPE濃度を測定するために液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)の開発に着手した。当研究室の先行研究で我々が開発した定量分析法を改良することで、より簡便で高精度な定量法の開発に成功した。今回新たに確立した定量法は、従来法より抽出方法が簡便なため、大規模な疫学調査に応用することが可能となった。 そこで、このLC-MS/MS定量法を用いて9歳から12歳の健常な小児の血漿中LPE濃度を測定した。現在投稿論文が査読中であるため詳細は差し控えるが、我々は小児肥満と血中LPE濃度の関連性を見出した。小児肥満は成人期の生活習慣病を引き起こすリスクファクターであることが知られている。そのため、小児期の詳細な脂質プロファイリングやバイオマーカーの探索は生活習慣病の予防や治療においてきわめて有意義である。本研究結果は将来的に生活習慣病の新たな予防法や治療法の確立に役立つことが期待される。
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