研究課題/領域番号 |
23KJ0086
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
桜井 亘大 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | ヒッグスボソン / ヒッグスセクター / 暗黒物質 / アクシオン |
研究実績の概要 |
素粒子標準理論の未検証部分であるヒッグスセクターと暗黒物質の有力な候補であるアクシオンの関連性を精査する為、次の二つの状況を考えた。1.アクシオンとヒッグスボソンが直接的な相互作用を持つ。2.構築する新物理理論に対する理論的な制限を通じてアクシオンとヒッグスボソンの間に間接的な相関がある。本年度の研究ではこの二つの場合それぞれについて以下の研究を行った。 1.重い付加的ヒッグスボソンとアクシオンの相互作用を考え、初期宇宙の発展において付加的ヒッグスボソンからアクシオンがどの程度の量が生成されるかを評価した。典型的にはアクシオンと付加的ヒッグスボソンの相互作用は微弱であるが、この相互作用はまだ未発見の新粒子間に働くものであり、これまであまり考えられてこなかった新たなアクシオンの生成過程を与える。アクシオンの残存量と宇宙線観測によるアクシオンと光子の相互作用に対する制限を解析し、従来考えれらていた電子や光子の相互作用に由来する生成過程と比較し重いヒッグス由来の生成過程の方がより多くの量のアクシオンが作られることやアクシオン-光子結合により厳しい上限が与えられることを明らかにした。 2.レプトンフレーバーを破る(LFV)ヒッグスボソンの希崩壊過程を予言するアクシオン模型を考え、ヒッグスボソンの観測がアクシオンの性質に与える影響について調べた。この種の模型ではヒッグスの自己相互作用の大きさが電弱スケールよりも高いエネルギースケールで摂動的に振る舞うという理論的要請により、ヒッグスボソンとアクシオンの性質の間に非自明な相関がつく。とりわけヒッグスボソンのLFV崩壊の二つのモードが同時にエンハンスするシナリオに注目し、このようなシナリオの理論パラメータ領域の一部は将来のレプトンの希崩壊過程の測定やアクシオン太陽望遠鏡実験により検証できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.の研究に関しては、摂動の0次で現れる付加的ヒッグスボソンボソンの崩壊や散乱によって生成されるアクシオンの残存量を包括的に評価し、崩壊の寄与がドミナントであることを特定した。そして、実施研究で注目している二つのヒッグス2重項場と一つのスカラー1重項場を含む模型に対する理論的な制限や実験的な制限を回避するベンチマークを考え、各ベンチマークポイントに対しアクシオンの残存量の評価と、アクシオンと光子の制限解析を終えた。現在は得られた結果を元に論文を執筆している段階である。 2.の研究に関しは、注目している新物理模型に対して全ての湯川相互作用のタイプに対して、各種理論的制限と実験的制限を満たしつつ、二つの異なるヒッグスボソンの希崩壊過程を増強するシナリオが存在することを見つた。さらに、そのようなシナリオの検証可能性についても議論しており、大方主要な成果は出揃っている。しかし、まだレプトンの希崩壊過程の解析で網羅されていないプロセスが残っており、残りのプロセスを解析し、見つけたシナリオに対する影響を調べている。同時に論文の執筆も進めている状況である。 上記のいずれの研究も、研究成果を示す主要な結果は大方出揃っている段階であり、本研究課題は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、アクシオンとヒッグスセクターの関連性をより詳細に調べるために、アクシオンの相互作用やヒッグスボソンの相互作用に対する摂動の高次効果の重要性を明らかにしていきたい。 特に後者については、ヒッグスボソンのレプトンフレーバーを破る結合の摂動の0次の効果は、現状のLHC実験におけるヒッグスボソンの測定による新物理理論の制限により、抑制される傾向にあるため、量子効果が重要になる可能性がある。また、理論に新たな隠れたU(1)ゲージ対称性が存在する新物理のシナリオや超高エネルギースケールに大統一理論が実現するようなシナリオにおいて、アクシオンやヒッグスボソンの性質にどのような影響があるかを調べる。このような研究により、摂動の高次効果のみならず、新物理理論の構造によって、ヒッグスセクターとアクシオンの関連性がどのように変更を受けるかを精査していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は客員研究員という身分でワルシャワ大学に滞在した。現地の研究者との共同研究を最優先する為、当初予定していたよりも、国際会議に参加する回数を減らした。 次年度からは所属している東北大学に戻る。次年度は、今年度と比較してより多くの国際会議や国内研究会に参加する予定である。生じた次年度の使用額分と次年度の請求分の多くはその為の旅費として計上する予定である。
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