研究課題
地球型惑星の集積期に形成されたと予想される水素とメタンを主成分とする還元的原始大気の進化を明らかにすべく、大気光化学モデルと流体力学的散逸モデルの構築を進めた。大気光化学モデルについては新たに有機分子の生成とその紫外線遮蔽効果を考慮し、メタンの高次炭化水素への重合化と水酸基ラジカルとの反応に伴う酸化の分岐比を推定した。数値計算の結果、アセチレンやアレンをはじめとした有機分子の紫外線遮蔽効果により水蒸気光分解に伴う水酸基ラジカルの生成とメタンの酸化が著しく抑制されることが明らかとなった。それにより相対的にメタンの高次炭化水素への重合化が促進される。同時にシアン化水素やホルムアルデヒドといった生命の材料となり得る有機分子の生成も効率的に進み、当時の大気が生命誕生に繋がり得る有機物生成の主要場として機能していたことが示唆された。流体力学的散逸モデルについては構築済の水素、メタン、水蒸気、およびそれらの化学生成物を考慮したモデルに、光化学反応やマントルからの脱ガス、酸化的な惑星材料物質の集積により供給される酸化的炭素種である一酸化炭素と二酸化炭素を新たに取り入れた。数値計算の結果、光学特性の違いにより流出大気中での炭素種の振る舞いと大気散逸に及ぼす影響に著しい相違点が存在することが明らかとなった。二酸化炭素については長波長の紫外線まで吸収するために速やかに光分解する一方で、一酸化炭素は限られた波長域の紫外線のみの影響を受けるために光分解しにくい。それにより、流出大気中で一酸化炭素が主要な炭素種として安定的に存在し、さらにその放射冷却効果によって水素散逸率を著しく低下させ、炭素種についてはほとんど散逸が進まないという結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
大気光化学モデルと流体力学的散逸モデルそれぞれにおいて改良を進め、新たな知見を得つつある。大気光化学については新たに有機分子の生成とその紫外線遮蔽効果を考慮することに成功し、アセチレンやアレンをはじめとした有機分子の紫外線遮蔽効果に関する論文を執筆し国際誌に投稿済である。流体力学的散逸モデルについては酸化的炭素種である一酸化炭素と二酸化炭素を新たに取り入れ、各酸化物が流体力学的散逸に及ぼす影響について論文にまとめ、現在投稿準備中である。
大気光化学モデルについては有機物ヘイズはじめさらに高分子量の化学種も考慮し、それらが生命の材料となり得る分子の生成に与える影響を検討する。流体力学的散逸計算については惑星質量はじめパラメータスタディを進め、大気散逸率を決定づける要素の系統的理解を目指す。加えて新たに大気-溶融シリケイト間化学反応モデルと惑星放射モデルの構築を進め、惑星集積期に形成される溶融マントル(マグマオーシャン)と原始大気の相互作用が大気組成進化に及ぼす影響を明らかにする。
なし
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
The Astrophysical Journal
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