研究課題/領域番号 |
23KJ0099
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
加藤 剛臣 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | カゴメ格子 / 電荷密度波 / 角度分解光電子分光 |
研究実績の概要 |
本年度は装置改良として、6 eV連続発振レーザー光源系の改良を行った。集光光学系を構築し、10マイクロメートルのスポットサイズを達成した。また、光路に波長板を設置し、水平および垂直方向の直線偏光と円偏光を切り替えることが可能になった。偏光可変となったことにより、円二色性測定や光電子放出過程の軌道選択則を用いたバンドの軌道の決定も可能となった。 またこれと並行して、空間分解能の高い放射光マイクロARPES装置を用い、カゴメ超伝導体AV3Sb5 (A = K, Rb, Cs)の3物質全てについてアルカリ金属終端表面とSb終端表面のドメインを分離した電子状態観測に成功した。それぞれのドメインについて電荷密度波相における電子状態を測定した結果、アルカリ金属終端ドメインでは電荷密度波の3次元周期に由来するバンドの折り返しを示すバンド分裂が観測された一方で、Sb終端ドメインではその分裂が現れないことを見出した。このことから、3次元的電荷密度波は表面終端構造に依存しており、アルカリ金属終端ではバルクと同様の3次元周期が保たれる一方でSb終端表面ではそれが消失していることを明らかにした。また、この終端依存性はKV3Sb5、RbV3Sb5、CsV3Sb5の全てで共通の振る舞いであることを明らかにした。さらに、AV3Sb5のアルカリ金属終端ドメインにおける電子状態を比較した結果、バンド分裂が、ある特定のバンドにおいてRbV3Sb5とCsV3Sb5では現れる一方でKV3Sb5では現れないことを見出した。理論計算との比較を行い、アルカリ金属元素依存性は電荷密度波による格子歪みの3次元構造に起因しており、表面終端構造やアルカリ金属元素の種類によって3次元電荷密度波の振る舞いが敏感に変化することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は放射光マイクロARPES装置を用い、超伝導相の基盤となる電荷密度波相における電子状態を、ドメイン構造を分離して詳細に明らかにすることに成功した。AV3Sb5においては超伝導と電荷密度波は共存するため、電荷密度波相での電子状態、さらには格子歪みの3次元構造の決定は超伝導発現機解明の上で重要な知見になると考えられる。また、実験室のレーザー光源についても放射光と同レベルの微小スポット化が完了しており、さらに偏光の切り替えも可能となった。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は超伝導状態における電子状態観測を行うため、装置改良、主に低温化を行い、レーザー光源と組み合わせることで超高分解能ARPESによる電子状態の精密測定を行う。また、元素置換試料や一軸歪み印加試料の測定を行い、カゴメ格子超伝導体におけるバンド構造と物性の関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の想定に反し、圧力印加デバイスの真空中での圧力調整が困難であることが発覚したため再設計の必要が生じた。次年度に新たに設計したデバイスを製作し、それを用いた実験を行う。
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