研究課題
暑熱下持久的運動時の高体温誘発性換気亢進反応には、活動筋のpH低下が関与する可能性がある。もしそうであるならば、筋中の主要な水素イオン緩衝物質であるカルノシンを増加させるβ-アラニン摂取によって、暑熱下持久的運動時の高体温誘発性換気亢進反応は抑制されると考えられるが、このことは明らかでない。そこで本年度は、β-アラニン摂取が暑熱下中強度運動時の高体温誘発性換気亢進反応に及ぼす影響を検討した。対象者は20名の若年健康男性であり、β-アラニン (n = 10) もしくはプラセボ (n = 10) を2週間 (6.4 g/日) 摂取する前後で、暑熱下 (35℃/50%RH) 中強度 (50%最高酸素摂取量) 一定負荷運動を冷水浸水後に行った。また、中強度運動に続いて高強度 (75%最高酸素摂取量) 一定負荷運動を疲労困憊まで行い、パフォーマンス (運動継続時間) を評価した。その結果、β-アラニン摂取によって暑熱下中強度運動時における換気亢進の深部体温閾値および傾きは変化せず、同一深部体温時の換気量も低下しなかった。しかしながら、暑熱下中強度運動時の主観的運動強度や呼吸努力度は、β-アラニン摂取後に摂取前よりも低値を示した。また、高強度運動時において、β-アラニン摂取は摂取前よりも換気量を抑制し、運動継続時間の延長に効果的であった。これらの結果から、β-アラニン摂取は暑熱下中強度運動時における高体温誘発性換気亢進反応を抑制しないが、感覚 (運動や呼吸のきつさ) 増加を抑制する方策となる可能性、また、暑熱下持久的運動時のラストスパート (高強度運動時) 局面における換気亢進の抑制やパフォーマンス向上に有効な方策となる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
関連の論文がAm J Physiol Regul Integr Comp Physiol に掲載された。また、当初予定していた研究課題の一つ「βアラニン摂取が暑熱下運動時の換気および脳血流反応に及ぼす影響」を遂行でき、興味深い結果が得られた。しかし、国際誌に採択されるための追加検討が必要である。
我々はこれまでに、炭酸水素ナトリウムやβアラニン摂取によって暑熱下運動時の換気亢進反応や主観的な運動・呼吸のきつさ、脳血流量の減少が抑制されることを明らかとした。しかし、炭酸水素ナトリウムやβアラニン摂取が暑熱下運動に伴う認知機能の変化に及ぼす影響については不明である。そこで本年度は、炭酸水素ナトリウムやβアラニン摂取が暑熱下運動時の認知機能に及ぼす影響を検討する。また、βアラニン摂取により筋のカルノシン濃度が増加していることを確認するための実験を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology
巻: 325 ページ: R69-R80
10.1152/ajpregu.00282.2022