研究実績の概要 |
本研究は,療育手帳を所持し,障害福祉サービス利用中の母親(以下,母親)におけるソーシャル・ネットワークの規模と構成並びにそこから得ているソーシャル・サポートの実態を詳らかにし,社会課題を明らかにすることを目的として実施している. そのため,研究1として知的障害者福祉関係者(以下,支援者)の知的障害者の妊娠・出産・子育て等に対する態度を検討した.その結果,支援者の知的障害者への性的態度は一般人に対する態度より保護的であった.さらに知的障害女性は知的障害男性と比較して保護的な性規範を付与されやすく,それは行為の先に生殖が想定される性的接触でも顕著であった(延原・門下ら,2023).そうした態度形成への関与が想定される,子育てを支援する社会資源等も検討した.その結果,相談支援専門員は母親の子育てとその支援の難しさに基づき『現在ある制度・社会資源の改善点』を捉え,『新たに求められる社会資源・社会開発』も求めていた.必要性が指摘された社会資源等を物理的,情緒的,経験的,情報的サポートというソーシャル・サポートの類型で分類すると,いずれのソーシャル・サポートも十分に得られる環境ではないと認識されていた(延原・名川,2023;社会福祉学会).当該成果と先行研究を整理し,知的障害のある親が子育てする際の社会的障壁についても発表した(延原・武子ら,2023;発達障害学会). 研究2では,母親に対するインタビュー調査を分析し,ソーシャル・ネットワークの規模・構成とソーシャル・サポートの種類と内容を検討し,論文執筆を行った.母親は多様な人間関係から多岐に渡るソーシャル・サポートを得ていた. 研究4は,知的障害者の結婚生活・子育て支援ニーズに係る予備的な聞き取りを行った.都市部と地方という異なる地域の母親の聞き取りから,改めて家族構成や文化,地域特性によりニーズに差異があることが推察された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述の通り,研究1はその成果を論文にて発表するとともに,支援者の観点からの課題抽出を進展させることができた.それについては学会発表や他の研究者からの情報収集により議論を深めることができた. 研究2も予定通り母親に対するインタビュー調査の分析を進め,論文を執筆できた.当該成果から,知的障害のある母親が子育てする上で求めているソーシャル・サポートの種類や内容を一部明らかにすることができた. 研究4として,知的障害者の結婚生活・子育てに係るニーズを明らかにするため,結婚生活を送る知的障害のある女性,過疎地域にて子育てをする母親に対し予備的な聞き取りを行った.その中で,家族構成,文化,地域特性に関する検討が不可欠と推察され,研究4は予備的調査を継続する必要性が示唆された. 他方,研究3として2023年度実施を予定していた英国での現地調査が先方とスケジュールが合わず実施できなかった.ただし2023年度に得られた成果を踏まえて,2024年度に現地調査を行うことで,本邦における社会課題がより明確化できるという利点もあると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は,研究4について予備調査を継続し,今後の研究に向けた示唆を得る.研究5のグループホームにおけるカップル生活世帯に係る調査は,上半期に先行研究の二次分析,文献研究を行い調査設計を見直す.年度後半に1県のグループホームを対象とした質問紙による悉皆調査を行い,一次分析まで終える予定である. それに加えて,2023年度実施できなかった研究3の英国の現地調査を行い,日本における知的障害のある母親を取り巻くソーシャル・ネットワークとソーシャル・サポートの現況との差異について検討を深める. 2023年度の成果と,2024年度の成果を基に,本邦における母親の子育てにおける課題を整理する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に研究3として渡英して現地調査を行う予定であったが,先方と日程上の都合が合わず実施ができなかった.そのために,次年度使用額が発生した.ただし,2024年度に渡航しての現地調査を行う予定である.その渡航費用として残額を使用する見込みである. 2024年度には,当初より予定していた研究4の知的障害のある成人等に対する結婚生活・子育てに係るニーズに関する予備的調査を継続する.それに加えて研究5のグループホームを対象とした質問紙調査の設計に必要な文献研究,並びに質問紙調査の実施,分析等に使用する.また, 本研究で得られた知見の学会発表・論文投稿等にも使用する予定である.
|