研究課題/領域番号 |
23KJ0254
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
相馬 拓宜 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 地域農業 / オリーブ / 生産者調査 / 消費動向 / 消費者評価 |
研究実績の概要 |
近年、国産オリーブの栽培の機運が高まっている。15年前には、栽培地はわずか香川県と岡山県の2県であったが、現在では、南は鹿児島県から北は宮城県まで拡大している。国産オリーブの栽培は、比較的省力で栽培できることから、高齢者でも栽培可能であるとされる。また、オリーブは収穫後、製品化までに加工をする必要があり、製品の高付加価値化への期待もある。加えて、観光農園としての機能など6次産業化への期待もされている。実際に、地方自治体において産地化計画や振興計画が策定されるなど新たな特産品の創出に向けた動きがある。 他方で、オリーブの主製品であるオリーブオイルの国内の消費をみれば、拡大傾向にある。特に2010年代以降の消費の拡大が顕著であり、過去最大規模となっている。 しかし、海外産の輸入されたオリーブオイルがそのほとんど占めており、国産オリーブオイルなどは競争にさらされている。したがって、新規特産品として国産オリーブ製品が市場に浸透していくためには、差別化の方向性を検討する必要がある。そこで、本研究では地域の農業に資するとされる国産オリーブの市場拡大の要件を明らかにすることを目的とする。また、本研究は作物ポートフォリオや新規食品産業の勃興のプロセスを捉える研究としても重要となる。 本研究では、国内オリーブオイル市場などの消費動向を踏まえ、国産オリーブ生産者と国内消費者の双方から検討する。まず、国内のオリーブオイル市場の拡大を踏まえ、経年による消費動向の変容を明らかにする。次に、国産オリーブ生産者の分析では、経営実態の把握と経営効率性を評価する。最後に、消費者視点からは、製品の高付加価値化に向けた国産オリーブ製品が具備すべき属性を検討する。 上記の要件解明に向けた一連の分析から、地域に対する経済効果や地域振興策としての国産オリーブの在り方を検討するための基盤的知見の獲得を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国産オリーブ市場の市場拡大の要件解明に向けて、国内市場の消費動向、生産者、製品の高付加価値化の3つの側面から調査、分析を進めている。 国内市場の消費動向については、Covid-19パンデミックは食料消費に対しても大きな変容をもたらしたことから、パンデミックによるオリーブオイルの国内消費の変容を検討した。パンデミック発生前の2019年からパンデミック後の2022年までのオリーブオイルの購買履歴が記録されたスキャナーパネルデータを用いて分析を実施した。分析結果から、パンデミックや緊急事態宣言発令直後では、内食需要の高まりによりオリーブオイルに対する需要も増加したことが明らかとなった。また、購入パターンの類型化を行い、パンデミック以降、オリーブオイルの価格帯毎に一定程度の消費者が購入を増加させた傾向にあり、その傾向は継続していることも示唆された。 経営実態の把握にあたっては、訪問調査の実施とアンケート調査を実施した。訪問調査にあたっては、国内のオリーブ発祥の地である神戸のオリーブ生産者を訪問し、神戸のオリーブ振興に向けた取組みについて聞き取り調査を行った。また、経営効率性の評価を行うために、国産オリーブの生産者に対してアンケート調査を実施した。来年度以降、調査結果を精査し、経営効率性の分析を実施する予定である。 他方、製品の高付加価値化に向けた分析として、アンケート調査によるデータを活用し、主に信用属性の消費者評価と国産オリーブの副産物を活用した製品に対する消費者評価も検討した。具体的には、表明選好法を適用した分析から、オリーブオイルに対する信用属性の支払意思額を明らかにし、国産オリーブの副産物を活用した製品に対する評価との関係性を分析した。 上記、それぞれの視点において研究進捗が見られることから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も引き続き、国内市場の消費動向、生産者、製品の高付加価値化の3つの視点から分析を進める。 まず、国内オリーブオイルの市場の分析では、2010年以降の消費の著しい拡大を踏まえ、スキャナーパネルデータ(複数年の購買履歴データ)を用いた動的な定量分析を実施する。具体的には、オリーブオイルの消費に対するいくつかの購入類型を明らかにした上で、時間の経過とともにどのようなプロセスで消費者が購入パターンを変化させたかを検討する。この分析から、オリーブオイルの消費拡大とともに消費者の購買行動がどのように変化してきたかに対する知見を得る。 次に、生産者の調査にあたっては、経営実態の把握のための訪問調査とアンケート調査に基づく経営効率性の評価を実施する。訪問調査にあたっては、これまでの訪問調査を踏まえ、国産オリーブオイルに限らない国産オリーブを活用した製品にも注目する。新規特産品としてオリーブ振興を図る地域の生産者を訪問し、国産オリーブを活用した製品が経営上、どのような役割を果たしているのかについても検討する。また、経営効率性については、今年度実施したアンケート調査からData Envelopment Analysisなどの経営効率を評価する手法を採用し、経営効率の高い生産者の特徴を明らかにする。 最後に、製品の高付加価値化の視点からは、主に原産地属性に注目する。特に、消費者にとって国産属性があることで製品に対する評価は向上し得るのかを検討する。アンケート調査の実施から、表明選好法等の手法を用いて定量的に明らかにしたい。 以上の一連の調査と分析から、総合的に考察を行うことで、国産オリーブ市場の市場拡大に向けた要件を明らかにし、経済効果や地域振興策としての国産オリーブの在り方を検討するための基盤的な知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
国産オリーブオイル等の消費者評価について金銭的なインセンティブを付与した実験的な手法を検討したものの、多くの準備の必要性や予算規模を踏まえた結果、実施が難しいことから次年度使用が生じた。 来年度においては、主に国産など原産地属性に対する消費者評価に焦点を当てた研究を表明選好法の適用を視野に進めるため、アンケート調査を実施する予定であり、支出が見込まれる。別途、引き続き国産オリーブの生産者に対して訪問調査を継続的に実施していく。また、イタリアなどのオリーブ生産が盛んな国での小規模オリーブ生産者の訪問も検討しており、旅費の支出が見込まれる。その他、論文投稿に関連する費用等も支出する見込みである。
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