研究実績の概要 |
我が国の急速な高齢化に伴い、健康寿命の延伸がますます重要視されている。生体の最大の臓器である骨格筋は加齢に伴い量的変化に加えて筋力や代謝能低下などの質的変化を引き起こし、高齢者の自立性を阻害することから、骨格筋を健康に保つことは健康寿命の延伸の鍵になると考えられる。 骨格筋線維は代謝特性や収縮特性の違いから、大きく遅筋(type I)線維と速筋(type II)線維に分類される(図1)。遅筋線維は酸化的代謝に優れ、収縮速度と疲労速度が遅く、長時間一定の力を生み出すことができる。一方で速筋線維は解糖能に優れ、収縮速度と疲労速度が速く、瞬間的に大きな力を発揮することができる。速筋線維はその性質の違いからさらに3つのタイプ(type IIa, IIx, IIb)に分類され、IIb>IIx>IIa線維の順により速筋的な性質を持つ。加齢に伴い速筋線維からより遅筋的な性質を持つ筋線維タイプへの移行(遅筋化)が見られるが、筋線維タイプ移行が老化に対してどのような影響を及ぼしているのか明らかになっていない。 加齢に伴う筋線維タイプ移行の生理的意義の解明のため、type IIb筋線維を制御するlarge Maf転写因子(Mafa, Mafb, Maf)の三重欠損マウスの老齢解析を行った。老齢マウスに対してトレッドミルを用いた持久力テストを行ったところ、2年齢の三重欠損マウスの走行距離はは4か月齢の三重欠損マウスと有意な差がみられなかったことから、加齢で見られる遅筋化は老化に対して適応的な変化だと示唆された。
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