研究実績の概要 |
天然ゴムは産業的に重要な天然炭化水素ポリマーであり、現在産業利用される天然ゴムのほとんどはパラゴムノキ由来である。樹から採取されるラテックスにはゴム粒子と呼ばれる脂質単分子膜構造体が存在し、天然ゴムはその内部に貯留されている。ゴム粒子には様々なタンパク質が結合しており、それらのタンパク質が天然ゴム合成に関与していることが示唆されてきた。我々はこれまで、ナノディスクと呼ばれる人工脂質二分子膜構造体をコムギ胚芽無細胞翻訳系に導入することで、天然ゴム合成に関与する酵素活性のin vitro再構成を報告した (Kuroiwa, Sci. Rep., 2022)。 本研究では、ゴム粒子が脂質単分子膜を有することに基づき、人工脂質単分子膜粒子 (Lipid Monolayer Particle; LMP) を調製し、これを無細胞翻訳系に導入することによって、取り扱いの難しい脂質単分子膜構造体への脂質膜結合型タンパク質の再構成を可能にする技術を構築した。この実験系を用いて、ゴム粒子上に豊富に存在するREF/SRPPタンパク質が脂質単分子膜への特異的な親和性を有しており、粒子構造の安定化に寄与することを示唆する結果が得られた (Kuroiwa, Biosci. Biotechnol. Biochem., 2024)。グアユールにおけるSRPPホモログであるGHSも同様にLMPの安定化に寄与することから、LMPにPaCPT3およびPaCBPをGHSと共発現することでプレニルトランスフェラーゼ活性を再構成することも確認された。脂質単分子膜構造体には、ゴム粒子だけでなく脂肪滴やプラストグロビュールなどが存在しており、それぞれ中性脂質やカロテノイドといった疎水性代謝物の貯留の場である。これらの物質には産業的に重要なものも多く、従ってLMPシステムのさらなる応用が期待される。
|