研究課題/領域番号 |
23KJ0335
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新本 翔太 東京大学, 地震研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 震源パラメータのスケーリング則 / 震源スペクトル / 応力降下量 / 破壊伝播速度 |
研究実績の概要 |
本研究では、地震震源モデルのパラメータ(震源パラメータ)を確率論的に与えて、余震による地震の揺れの強さ(余震危険度)を評価する手法の開発を目指している。今年度は特に、震源パラメータとマグニチュードの関係(スケーリング則)、およびその同時分布を明らかにすることを目的とした。震源パラメータのスケーリング則と同時分布の理解は、震源物理モデルに立脚した余震危険度評価の精度向上に不可欠である。 日本の内陸地震のデータを解析して震源パラメータを求めた。本研究の結果と既往研究による結果を統合して、震源パラメータのスケーリング則を明らかにし、マグニチュード5付近でスケーリング則が変化することを確認した。例えば、地震前後の力の解放量を表す応力降下量はマグニチュード5付近までマグニチュードとともに増加し、マグニチュードが5よりも大きくなると一定になるという結果が得られた。これは、従来対立していた「応力降下量が一定である説」と「応力降下量がマグニチュードとともに増加する説」を調和させる新たな視点を提供するものである。さらに、観測した震源パラメータのスケーリング則が地震すべり時の摩擦発熱による間隙水圧の上昇によって説明できることを示した。また、推定した震源パラメータから同時分布を導出し、応力降下量と破壊伝播速度の逆相関などの知見を得た。 さらに、研究計画に示した課題に加え、地震工学分野における未解決問題に着手した。この問題は、観測から推定した震源スペクトルを用いて予測した最大地動加速度のばらつきが、観測地震動の回帰分析から得られたものよりも過大であるというものである。本研究では、従来の標準的な震源スペクトルモデルよりも複雑なモデルを導入することでこの問題を解決した。この成果は、地震動のばらつきを正確に予測するには、従来のモデルを超えた複雑な震源スペクトルモデルの採用が必要であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究目的は、日本の内陸地震に対して震源パラメータを推定し、震源パラメータのスケーリング則と同時分布を明らかにすることであった。本研究では、409の日本の内陸地震の震源パラメータを推定した。震源パラメータのスケーリング則の検討では、震源パラメータのスケーリング則がマグニチュード5付近で変化するという新しい知見を得ることができた。当初の計画よりさらに踏み込んで研究を進め、本研究で得られた震源パラメータのスケーリング則が地震すべり時の摩擦発熱による間隙水圧の上昇によって説明できることを示すことができた。また、震源パラメータの同時分布についても応力降下量と破壊伝播速度が逆相関するなどの重要な知見を得ることができた。 さらに、当初の研究計画に加えて、地震工学の未解決問題に着手し、地震動のばらつきを正確に予測するためには、従来の研究で標準的に使用されてきた震源スペクトルモデルよりも複雑なモデルが不可欠であることを示した。標準的な震源スペクトルモデルは、既往の地震工学および地震学の研究で広く用いられてきた。このため、得られた知見は、本研究計画を超えた広範囲な分野に影響をもたらす重要なものである。 上記のように初年度の研究で得られた成果は当初計画したもの以上である。一方で、当初の研究計画では、従来の標準的な震源スペクトルモデルの使用を前提としているため、より複雑なモデルを考慮した研究計画に修正する必要である。これらの点を総合的に判断した上で、本研究計画はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、地震動の観測記録を利用して対象地震の地震動を予測する手法を採用する。しかし、過去に地震が発生していない地域では、地震動予測に使用可能な観測記録が十分に蓄積していないことも多い。そこで、2年目は、余震危険度評価のために必要な観測地震の密度を特定することを目標とする。この観測地震の密度条件を明らかにするために、1年目の研究で解析した地震の観測記録を用いて余震の再現解析を行う。余震の再現解析では、まず対象地域の観測余震の一部を選択する。次に、選択した余震の観測地震動を用いて、対象地域の残りのすべての余震の地震動の時刻歴を予測して、予測が観測を再現できているか確認する。地震動予測に用いる観測余震の選択を変更し、再現解析を繰り返し適用することで、余震域内の対象地震の地震動を再現するために必要となる観測地震の密度を明らかにする。 1年目の研究で、本研究で前提としていた標準的な震源スペクトル(標準モデル)では地震動のばらつきを正確に予測するためには不十分であることが明らかになった。したがって、当初使用する予定であった標準モデルを用いた地震動予測手法を修正する必要がある。1年目の研究で、標準モデルを拡張した震源スペクトルモデル(拡張モデル)に基づいた震源スペクトル解析手法を開発し、マグニチュード5以上の地震に適用した。この手法をマグニチュード5未満の地震に対して適用して、観測記録から震源スペクトル特性を調べる。そして、得られた知見に基づき、拡張モデルを考慮した地震動予測手法を提案する。 以上より、2年目は、まず拡張モデルを考慮した地震動予測手法を検討し、観測地震の密度条件を明らかにすることを目指す。
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