研究課題
真核生物の細胞内には細胞質翻訳とミトコンドリア翻訳という2つの異なる翻訳システムが共存している。これはミトコンドリアが独自のゲノムDNAとリボソームを備えているからである。ミトコンドリア内のタンパク質発現系は、その解析の困難さからメカニズムの理解が立後れている。申請者は、この課題をribosome profiling法とmito-FUNCAT法により克服し、細胞接着がミトコンドリア翻訳を活性化するという新たな生命現象を見出した。さらに、その制御機構として細胞接着の情報がミトコンドリア外膜まで伝えられるシグナルカスケードを明らかにしてきた。そこで本研究では、シグナルをミトコンドリア外膜から翻訳の場となるマトリックスへと伝達する因子を同定し、その因子がミトコンドリア翻訳を制御する仕組みを明らかにしようとした。様々な可能性を検証していく中で、mtFAS経路が細胞接着依存的なミトコンドリア翻訳の活性化に関与していることを見出した。mtFAS経路はマトリックスにおいてmalonyl-CoAを基質とし、多段階の酵素反応を経て最終的にリポ酸を合成する代謝経路である。mtFAS経路がミトコンドリア翻訳を制御するメカニズムを探ったところ、mtFAS経路はミトコンドリアmalonyl-CoAの量を調節し、ミトコンドリア翻訳装置のマロニル化を介してミトコンドリア翻訳の開始と伸長速度を司ることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
細胞接着依存的なシグナル伝達経路がミトコンドリアマトリックスにおいてどのようにミトコンドリア翻訳を活性化するかを検証した結果、mtFAS経路が重要な経路であることを明らかにすることができた。また、その制御メカニズムとして、ミトコンドリア翻訳装置のマロニル化が重要であることも突き止めている。したがって、おおむね順調に進展していると考える。
ミトコンドリア翻訳装置のマロニル化がミトコンドリア翻訳を開始と伸長ステップで制御していることがわかったが、どのタンパク質のどのマロニル基が重要なのかは依然不明である。そこで、mtFAS経路の活性にしたがって、マロニル化の量が変化する残基を網羅的に明らかにし、構造的な側面からミトコンドリア翻訳の開始と伸長に関与する重要な残基を特定することを目指す。
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10.1101/2023.01.18.524628