本研究の目的は生理学的知見に基づいた計算機モデルを用いて,ドーパミンの状態(分布・量)の変化による姿勢制御障害のメカニズム解明であった.まずヒトの身体を表す筋骨格モデルおよび,それを制御する神経系コントローラモデルからなる計算機モデルを用いて,パーキンソン病患者の異常姿勢を再現した.これによって,パーキンソン病患者の姿勢を再現可能な神経系コントローラモデルのパラメータ,特に筋緊張を表すパラメータを同定した.次に,ドーパミンの変化と姿勢制御障害の関係を明らかにするため,この筋緊張パラメータとドーパミンの状態との関係を,パーキンソン病において重要な大脳基底核に基づいた構造を持つ機械学習モデルを用いて表した.また,機械学習モデルを用いて予測した筋緊張パラメータを用いて,パーキンソン病患者の姿勢を再現することによって,機械学習モデルの妥当性を検証した.その結果,実際の被験者の異常姿勢を再現することができ,機械学習モデルが妥当であることが確認された.加えて,機械学習モデルに大脳基底核の構造を取り入れることは,ドーパミンの状態から筋緊張パラメータの予測という問題において,精度向上に寄与する可能性が示された.また,予測結果を解析することによって,パーキンソン病患者の姿勢制御障害において重要な筋緊張が,脳の小脳や後頭葉のドーパミンの量に対する,線条体のドーパミン量に影響されることが示唆された.これらの研究成果は,国際学術誌に投稿予定である.
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