研究課題/領域番号 |
23KJ0581
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中原 龍一 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 腫瘍微小環境 / 代謝 / 細胞間連関 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
がん関連繊維芽細胞による腫瘍内の代謝変動の解析を継続中である。癌細胞とがん関連繊維芽細胞の共移植により腫瘍形成速度の有意な増加を確認できた他、腫瘍促進性の免疫細胞の浸潤も促進された。また、腫瘍由来のトランスクリプトーム解析をもとに、腫瘍関連マクロファージや細胞障害性T細胞の抑制に関する免疫応答が亢進している事を明らかにした。さらに、腫瘍内の代謝物をメタボローム網羅解析した結果、プリンヌクレオチド代謝経路の関連代謝物とイタコン酸が癌細胞とがん関連繊維芽細胞の共移植によって上昇する事を発見した。近年、プリンヌクレオチド代謝物とイタコン酸は抗腫瘍免疫応答を抑制する働きが報告され、がん関連繊維芽細胞がもたらす腫瘍微小環境への変化はそれらの代謝物が寄与している可能性を見出した。イタコン酸代謝経路の阻害によって、腫瘍促進性の免疫反応を抑制すると共に腫瘍形成の速度が顕著に低下した。以上の結果から、がん関連繊維芽細胞は代謝物を介して腫瘍微小環境を制御することを発見し、現在論文投稿中である。また、腫瘍微小環境における低酸素環境が単球系免疫細胞の脂質代謝をオルガネラレベルで制御し、腫瘍促進性免疫反応を活性化する事を見出した。この研究成果を2023年の10月にThe EMBO Journalで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書の通り順調に進展している。本年度までに申請者は癌細胞とがん関連繊維芽細胞の共移植実験系を確立し、網羅的遺伝子発現や代謝物解析によりがん関連繊維芽細胞の腫瘍促進メカニズムの同定を成功させた。また、その代謝経路を阻害する事で腫瘍の形成を抑制でき、新たながん治療のターゲットの可能性を見出した。論文の作成及び投稿も順調に進展しており、本年度に公表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で行われたトランスクリプトーム解析により、子宮頸がんと膵癌でがん関連繊維芽細胞の腫瘍促進性メカニズムが異なるが示唆された。今後、異なる癌腫でがん関連繊維芽細胞の機能と活性化のメカニズムについて探索する。また、腫瘍内の代謝物をメタボローム網羅解析した結果、プリンヌクレオチド代謝経路の関連代謝物とイタコン酸が癌細胞とがん関連繊維芽細胞の共移植によって上昇する事を発見した。今後、イタコン酸の性質及び腫瘍促進性免疫細胞におけるイタコン酸の役割を解明していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究費は異なる癌種におけるがん関連繊維芽細胞による腫瘍内の代謝変動の解析、またターゲット同定済の子宮頸がんと膵癌におけるイタコン酸経路新規阻害剤の開発などの実験及びデータ解析に使う予定。
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