研究論文”Knowledge Spillovers and Strategic Network Formation”を執筆した。この論文では企業の共同研究が研究開発投資に与える影響を、米国の企業データと特許データを用いて実証的に分析した。具体的には、企業がどのように共同研究相手を選択するのかを明らかにした上で、共同研究による知識の伝播(スピルオーバー)の度合いを数値的に評価した。共同研究には、協力することでそれぞれの企業固有の知識を補完しあうことで新たな技術開発につながるという正のインセンティブと、技術開発の利益を独占できなくなるという負のインセンティブが存在することが考えられる。このメカニズムを説明するために、ゲーム理論に基づく理論モデルを構築した上で、米国の企業データと特許データを用いて構造推定を行なった。先行研究では共同研究相手の選択と共同研究による知識スピルオーバーの両方を同時に考えることは難しかったが、二段階モデルを用いた構造推定アプローチによって、この二つの事象を同時に分析することを試みた。この結果、共同研究相手を決定する要因と研究開発投資額を決定する要因に関して推定値を得た。また、知識スピルオーバーの大きさに関して、共同研究相手の選択を考慮すると、考慮しない場合に比べて50%ほど大きい推定値が得られることがわかった。さらに、得られた推定値を用いて、企業の研究開発投資を効率的に増やすための補助金配分政策の反実仮想分析を行なった。この論文について、Summer Workshop on Economic TheoryやSIHS Seminar Seriesで発表を行い、セミナー参加者からのフィードバックを受けた。フィードバックをもとに論文を改訂し、投稿準備を行なった。
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