研究課題/領域番号 |
23KJ0716
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅井 寛之 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 異質的主体モデル / ネットワーク / マクロ経済学 |
研究実績の概要 |
当該年度は、企業の生産能力に関する異質性が企業自身の生産ネットワーク投資行動を通じてどのようにマクロ経済全体に波及するかについて、一般均衡モデルを構築して理論・定量的に分析した。 このモデルは、企業間ネットワークを離散的なオブジェクトとしてではなく連続的なオブジェクトとして記述するBernard et al. (2022)の手法を拡張することで、通常のモデルに比べて大幅に計算時間を削減し、モデルの定常状態、および定常状態間の移行過程を容易に計算することを可能にした。さらに各企業への産業政策を行った際の経済全体への波及効果が、社会ネットワークにおける代表的な指標であるボナチッチ中心性という指標を用いて解析的に表現できることを示した。 この一般均衡モデルを用いて、中小企業が政府の介入による補助金等、市場を介さない形での資金を調達している状況に関する政策シミュレーションを行い、そのような政策が中小企業による企業間ネットワークの構築を通じてどのようにマクロ経済全体に波及するかの効果を分析した。結果として、中小企業優遇政策が過剰な水準となり、本来退出すべき水準の低生産能力を持つ企業が経済に残存するようになると、彼らの低生産能力はネットワークを通じて生産性が本来高い水準の取引先にも影響を及ぼし、経済全体での生産性の低下をもたらすような波及効果が存在することが示唆された。この結果は、我が国で特に多用される中小企業政策の効果の理解の一助となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は主に生産ネットワーク投資の観点から企業の行動を分析し、異質な経済主体が無数に存在する市場における資金提供を通じた産業支援策のマクロ経済全体への効果を検討した。当該年度では具体的なR&D投資行動の分析は行えていないものの、上述した研究の中で開発された、異質的主体とその産業間ネットワークを通じた相互作用を考慮した上で一般均衡を分析するための理論、および数値解析手法は、本研究課題を実行する上で分析の土台となるものであり、今後の研究において活用されることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの得られた知見を活用し、企業の異質な生産能力と企業の投資行動を考慮した一般均衡モデルを構築する。その後は数値解析手法を用いて資金構造の違いがそれらの企業行動に及ぼす影響を分析するとともに、経済全体への効果を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はデータの整備作業に関するRAを見つけることができなかった。来年度以降はRAを嘱託し、当該作業の依頼を行う予定である。
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