研究課題
本年度前半では、遠方銀河の化学進化に着目した。銀河形成シミュレーションを用いて水素電離領域からの輝線放射モデルを考案し、酸素輝線の放射強度を計算した。遠方銀河の酸素輝線は近傍銀河に比べて約10倍放射強度が強いことが明らかとなった。これは、遠方銀河では大質量星が多く形成され、その放射によってガスの電離状態が高いためである。また、複数の酸素輝線の強度比をとることで、星形成ガス雲の物理状態を推定する輝線比診断を提案した。この研究は査読論文としてAstrophysical Journalに受理された。本年度後半では、遠方銀河の内部構造に注目した。大規模・高解像度の宇宙論的銀河形成シミュレーションで得られるデータから,複数の多成分構造(クランプ)を同定するプログラムを開発した。この際,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で検出可能な明るさをもつ銀河かつ,空間分解可能なクランプを同定するよるアルゴリズムを開発した。上述で同定したクランプ構造に対して、本年度前半で開発した放射モデルを適応して酸素輝線の放射強度を計算した。これを数千個のシミュレーション銀河全てに対して計算を行い、得られた輻射強度と観測結果を比較したところ、JWSTで観測されつつあるクランプ構造と類似した放射分布、星質量をもつものが存在することを示した。観測天体と類似する銀河サンプルを用いて、数億年にわたるガスの運動を分析し、クランプの形成過程およびその後の進化を追跡した結果、銀河合体時に周囲のガスが圧縮されクランプが形成されることが明らかとなった。この結果は論文にまとめ投稿し、現在査読中である。以上の結果は国内外の研究会議においても広く発表した。また、スペイン・日本の共同JWST観測チームの理論班として観測銀河の進化過程の理論的示唆を行った。この結果は記者会見およびプレスリリースを介して広く発信した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度前半の水素電離領域からの輝線放射モデルの構築が当初の計画であったが、それに加えて遠方銀河中のガスのダイナミクスの研究も行えた為である。本年度から最新のJWSTによる遠方銀河銀河の内部構造が初めて報告されるようになったことで、その理論的示唆も行った。本年度後半にはスペインに1ヶ月滞在し、共同研究者と集中してダイナミクスに関する研究を実施出来たことが進捗に貢献した。来年度前半までに論文を再投稿し、受理を目指す。
次年度は、遠方銀河の活発な星形成で生成されるダストによる放射減光および再放射に着目した研究を行う。具体的にはシミュレーション銀河に対して三次元輻射輸送計算を行い、遠方銀河(赤方偏移6以上)でのダスト減光の影響とダスト再放射の検出可能性をそれぞれJWST、ALMAの最新の観測と比較する。これは、包括的な宇宙初期での星形成活動を解明する一助となる。2024年4-8月上旬までイタリアに滞在し、共同研究者と上記のことを行う。滞在先の理論グループは遠方銀河でのダスト形成における解析モデルおよびシミュレーションを世界で牽引している。彼らとの共同研究に加え、自身の所属するJWST&ALMA観測チームの結果や観測提案に関して、シミュレーションを用いて模擬データを作成することで理論的解釈を行う。
昨年度は、2024年3月に行われた春季天文学会が、自身の所属機関である東京大学で行われたため、その分の旅費がかからなかったため。この差額分は書籍および当初予定していなかったクラウドやChatGPT等のサブスクリプション代に当てる。来年度は国際学会に2件参加が決まっており、さらに例年参加している国内学会4件の旅費を計上する。また、今年度はダストの輻射輸送計算という非常にメモリを使う計算・解析を行うため、高性能の解析用パソコンおよびハードディスク16TB分を購入する。最後に、現在査読中の論文と、執筆中の論文を米国天体物理学誌に投稿する費用を計上する。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件) 備考 (4件)
The Astrophysical Journal
巻: 953 ページ: 140-140
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https://newsroom.ucla.edu/releases/dark-matter-reveal-bright-galaxies-beginning-of-time?preview=2528
https://yurinanakazato.github.io
https://www.astro.ucla.edu/~snaoz/TheSupersonicProject/index.html