研究課題/領域番号 |
23KJ0735
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
海老根 修平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 翻訳 / 品質管理機構 / 非典型翻訳反応 / CATテイル / 神経筋疾患 |
研究実績の概要 |
翻訳異常を起因とした品質管理機構であるRibosome-associated Quality Control(RQC)は衝突リボソームの解消と合成途中の異常タンパク質の分解を誘導する。RQCの下流において、Rqc2がmRNA非依存的にCATテイルと呼ばれるアラニンとスレオニンからなるランダムな配列を付加する非典型翻訳反応(CATテイリング)が報告されている。昨年、我々は共同研究先による構造解析とそれをもとにした遺伝学的な解析によって、出芽酵母におけるCATテイリングのメカニズムを解明した。しかし、Rqc2のヒトホモログであるNEMFによるCATテイリングのメカニズムについては不明なままである。また、NEMFが発現しないマウスで見られる神経異常や神経筋疾患や発達障害の患者からNEMFの変異が確認されるなどNEMFの活性が神経形成に重要であることが報告されている。本研究では、CATテイリングの異常と神経異常の相関性の解明を目的としている。まず、出芽酵母の結果をもとにNEMFの構造機能相関解析を行った。CATテイリングに重要な残基のうちNEMFにも保存されたアミノ酸残基に変異を導入した変異型NEMFを作製し、レポーターアッセイを行った。その結果、Rqc2同様にtRNAアンチコドンループや25SrRNA、L1-stalkとの相互作用がCATテイリングに必須であったが、一部の相互作用はCATテイリングに影響しないことが明らかになった。さらに、CATテイリング促進因子eIF5Aの影響について調べるために内在性のeIF5AをKDさせた後、変異型eIF5Aを発現させ、レポーターアッセイを行った。しかし、eIF5AのKD細胞では正しく評価することが難しいため、CRISPR耐性の変異型eIF5Aを発現する株を作製し、内在性eIF5A をKOさせる手法で再度検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出芽酵母におけるCATテイリングのメカニズムは構造解析や遺伝学的解析によってその全貌が明らかになりつつある。しかし、哺乳類細胞におけるCATテイリングのメカニズムについては未だ不明な点が多く、NEMFの機能異常と疾患との相関性を解明する上で哺乳類細胞におけるCATテイリングの分子機構の解明は必要不可欠である。本研究の一年目では、NEMFによるCATテイリングのメカニズム解明のため、NEMFの構造機能相関解析とeIF5Aの機能解析を予定していた。出芽酵母で確認されたCATテイリングに必要な相互作用箇所の多くはNEMFでも保存されていることが明らかとなり、NEMFによるCATテイリングのメカニズムはRqc2と類似している可能性が示唆された。eIF5AがCATテイリングに与える影響の確認については、CRISPR耐性の変異型eIF5A発現下における内在性eIF5AのKOが現在考えられる最適な評価系であり、再度検証中である。当初、予定していたNEMFKOマウスを用いた解析については、マウスの準備が間に合わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、哺乳類細胞において、eIF5AがCATテイリングに与える影響を改善策で検証する。次に、疾患由来の変異型NEMFと野生型NEMFでそれぞれ形成されるCATテイルの性質にどのような差が生じるかについてCATテイルのアミノ酸組成に着目する。CATテイルのアミノ酸組成は異常タンパク質の分解運命を決める重要な特徴であり、CATテイルが付加された異常タンパク質を精製した後、質量分析によって解析する。また、疾患由来の変異型NEMFのトランスジェニックマウスを作製しており、マウスを用いた個体レベルでの解析を行う予定である。
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