研究課題/領域番号 |
23KJ0790
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 一希 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | 非線形分光法 / ハイパーラマン分光法 / 振動分光法 / ラマン分光法 / 時間分解分光 / 水 / 凝縮相 / ポンププローブ分光 |
研究実績の概要 |
本年度は、時間分解ハイパーラマン分光装置のプローブ部に適用するハイパーラマン分光装置の開発に重きを置いた研究をおこなった。自発ハイパーラマン散乱は信号強度が微弱であり、信号ノイズ比の高いスペクトルを取得するためには、非常に長い測定時間を要することが課題として挙げられる。本研究の目的である時間分解ハイパーラマン分光測定では、従来の時間分解振動分光測定と同様に、様々な遅延時間に対して数多くのスペクトルを取得する必要がある。一連の測定を迅速におこなうために、ハイパーラマン過程とコヒーレントラマン過程を組み合わせた、コヒーレント反ストークスハイパーラマン散乱(CAHRS)分光法の開発をおこなった。我々は実験的に初めてCAHRS信号を検出することに成功した。このCAHRS信号について、入射光強度や遅延時間、入射光や信号光の偏光配置を変えた測定をおこない、CAHRS過程について知見を得た。また、CAHRS信号は高次の非線形分極に由来する信号であるため、測定対象とした試料の分子振動の選択律を用いた検証をおこなうことで、検出された信号光が真にCAHRS過程に由来する信号であることを確かめた。さらに、自発ハイパーラマン分光測定と同程度の入射光強度でおこなったCAHRS分光測定では、自発ハイパーラマンスペクトルと同程度の信号ノイズをもつスペクトルを1スペクトルあたり1秒程度の非常に短い露光時間で取得することができた。 くわえて、2つの国際学会および2つの国内学会に出席、発表をおこない、他の研究者との交流を深めることで、自身の研究に対する様々な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は、ハイパーラマン散乱分光法をプローブに適用した新規の時間分解ハイパーラマン分光装置の開発を目標とした研究をおこなった。計画当初は、プローブ部に通常の自発ハイパーラマン散乱分光法の適用を想定していた。本年度の研究により、自発ハイパーラマン信号に比べて信号強度の大きいコヒーレント反ストークスハイパーラマン散乱(CAHRS)信号の検出に成功したため、当初の計画と比べ、より高感度により短時間でスペクトルを取得できる時間分解ハイパーラマン分光装置の開発が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
時間分解ハイパーラマン分光装置を用いた液体の水の高波数領域から低波数領域への振動緩和過程の時間追跡において、低波数領域と高波数領域の振動バンドを同時に取得する必要があるため、2024年度は、2023年度に開発したコヒーレント反ストークスハイパーラマン散乱分光法を改良をおこない、低波数領域と高波数領域にわたる広い波数領域の振動モードを一度に励振することが可能なマルチプレックスCAHRS分光測定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では時間分解ハイパーラマン分光装置全体の開発を想定していたが、プローブ部としてのハイパーラマン分光装置の改良をおこなう必要が生じたため、2023年度の必要物品に変更があった。
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