研究課題/領域番号 |
23KJ0820
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上間 亜希子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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キーワード | アカバネウイルス / リンパ節 / レセプター分子 |
研究実績の概要 |
本研究目的は、「ブニヤウイルスの標的細胞とレセプター分子の探索」である。家畜の異常産で重要視されるアカバネウイルス(AKAV)について、小動物モデルでのリンパ節における標的細胞を突き止めることから着手し、培養細胞株を用いた実験系でレセプターを探索する。 R5年度の予定は、マウスのリンパ系組織におけるAKAV標的細胞の同定であった。野生型Iriki株10^6 PFU/100 uLを一週齢マウス(n=6)に腹腔内接種し、感染5日目に脾臓, 腸管膜リンパ節, 小腸パイエル板を採材した。各臓器を4% PFAで固定して標本作製し、AKAVのポリクローナル抗体を用いて免疫染色を行なった。またGFP発現AKAV(Iriki株由来)10^6 PFU/100 uLを一週齢マウス(n=6)に腹腔内接種し、感染2日目と5日目に開腹して蛍光実体顕微鏡下で蛍光観察を行った。野生型Iriki株接種群では、リンパ組織は全てAKAV陰性であった。GFP発現AKAV接種群では、蛍光が弱く判定できなかった。また小腸パイエル板を採取し免疫染色を行ったが陰性であった。 流産モデルの候補である妊娠ハムスター(妊娠日齢9日目)にGFP発現AKAVを皮下接種後、感染2, 4日目に親の脳, 脊髄, 腸管膜リンパ節を採取した。各臓器の10%もしくは20%乳剤を作製し、定量RT-PCRでウイルス量を測定した。感染ハムスター(親)は症状を示さなかったが、脳や脊髄よりも腸管膜リンパ節で多くのウイルス量が検出された(2日目:6.8×10^5コピー/g、4日目:3.8×10^6コピー/g)。脳での最高力価は2.7×10^4コピー/g(4日目)、脊髄で1.1×10^5コピー/g(4日目)であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回の野生型Iriki株およびGFP発現AKAVのマウス接種試験では、10^6 PFU/100 uLの腹腔内接種を行なったが、脾臓, 腸管膜リンパ節, 小腸パイエル板などのリンパ系組織の免疫染色の結果、AKAVは陰性であった。一方、野生型Iriki株接種群の脳では脳幹を中心に強い陽性反応が出た。これらのなかには感染5日目で昏睡状態や脚を引きずるなど症状が出ている個体が存在し、発症して死に至る個体では、リンパ系組織よりも神経系でウイルスが増殖することが分かった。逆に無症状や結膜炎など軽い症状の個体ではリンパ系組織でウイルスが増殖していると考えられる。リンパ系組織でのウイルス感染を確認するためには、今回よりも接種力価を低く振って条件検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
免疫染色では、ウイルスが十分増殖していないと検出できないことが予想される。予備実験では、腸管膜リンパ節で高力価のウイルスが分離された個体は、感染5日目のマウスのうちの3割であったことから、今回の接種試験では免疫染色で検出できる量のウイルスがリンパ系組織で増殖したマウスがいなかったと考えられる。また成熟したハムスターの感染では症状が現れなかったことや、マウスの感染実験の結果から、瀕死状態に陥る発症個体では脳・脊髄なのどの神経系でウイルス力価が上がり、生存個体や無症状の個体ではリンパ組織でウイルス力価が上がる傾向にあることが分かった。マウスのリンパ球系細胞はよくセルライン化されており、マウス細胞をターゲットにしたsgRNAライブラリーが存在するため、AKAV標的細胞の同定にマウスは最適なモデル動物である。再度、Iriki株の接種力価を下げてマウス接種試験を行い、免疫染色も含めた検出系を検討して、マウスリンパ節の標的細胞を同定する。 同定した標的細胞のうちセルライン化されたものにAKAVを感染させ、ウイルスがよく増えるものを選択する。その後、sgRNAを用いたゲノムワイドスクリーニング法を利用して、AKAVのレセプター分子の探索を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスのリンパ節におけるAKAVの感染細胞を同定できた場合、セルライン化した細胞株を購入する予定であった。2023年度は細胞やその培養に必要な培地、試薬、プラスチック製品などを購入していないため、翌年度これらの購入費に充てる。
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