研究実績の概要 |
高齢化社会において老化による筋肉量の減少(廃用性筋萎縮)の改善は、QOLの観点から喫緊の課題である。ビタミンD3(VD3)は、古くから筋肉の増強・維持(「筋萎縮耐性活性」)を担うことが知られているホルモンであり、当該活性はVD3代謝物の一つである1,25-水酸化VD3(1,25D3)が、その結合タンパク質VDR(VD Receptor)を介して担うと考えられてきた。一方、「筋萎縮耐性活性」は、筋肉細胞が1,25D3標的臓器と比べVDRの発現量が極端に低いこと、筋肉細胞には1,25Dの側鎖を代謝するCYP24A1が大量に発現していることから、1,25D3以外のVD代謝物(50種以上存在。これらの生物活性はほぼ未開拓。)の関与が強く示唆される。そこで本研究では、これまで見過ごされてきたVD代謝物の中から、「筋萎縮耐性活性」に関与するVD代謝物の探索、およびその結合タンパク質の同定を計画した。 本年は、「筋萎縮耐性活性」に関与するVD代謝物の探索を実施した。しかし、当該活性に影響を与える代謝物は発見されなかった。そこで、研究の焦点を変更し、石灰化した筋細胞におけるVD代謝物群の効果について検討を行った。その結果、複数のVD代謝物の中から、1つの代謝物Aが筋細胞の石灰化抑制に有効であることが明らかになった。VD代謝物群が筋萎縮には影響を与えないものの、石灰化抑制には効果を示すことが判明したことは、特定の代謝物が持つ潜在的な治療的価値を示唆している。今後の研究で、この代謝物Aの具体的な作用機序や、筋疾患および石灰化疾患における治療応用の可能性についてさらに詳細な検討を計画している。
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