植物は、常に変化する環境に対応して生きていくために、様々なしくみを備えている。そのひとつである植物の色素体内の酸化還元(レドックス)制御は、光環境に応じて光合成のオン/オフを切り替えることができる。古くから、チオレドキシン(Trx)というタンパク質が、この制御のオン側を担う還元因子として知られていた。しかし、オフ側の制御のしくみは長く未解明であった。近年、このオフ側を担う酸化因子として、Trx様タンパク質が同定された。さらに、本研究員によるこれまでの研究から、Trx様タンパク質が、光防御や胚形成の制御に関与することが示唆されているが、その機能の詳細は明らかではない。本研究課題では、これまでに見いだした光防御や胚形成への関与を足掛かりとして、Trx様タンパク質が持つ未解明の機能を明らかにすることを目的とした。 本年度は、シロイヌナズナを実験材料として、Trx様タンパク質の変異株の作製とin vivo解析に取り組んだ。その成果を以下に示す。1)Trx様タンパク質が、標的となる光合成系タンパク質の酸化制御を介して光防御系の制御に関わることを、Trx様タンパク質過剰発現株の解析を通して明らかにした(J Plant Res 2024)。2)Trx様タンパク質が、胚形成時における色素体機能のレドックス制御に重要な役割を果たすことを、Trx様タンパク質欠損株の作製と解析を通して見いだした(論文執筆中)。以上の研究成果から、光防御系と胚形成への関与という、植物の色素体におけるTrx様タンパク質の新たな機能を明らかにすることができた。
|