研究課題/領域番号 |
23KJ0893
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
橋本 賢太 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 熱伝導率 / 軌道揺らぎ / 相転移 |
研究実績の概要 |
本研究は電子軌道の揺らぎを利用した新しい熱機能性材料の開拓を目指し,軌道揺らぎによる格子熱伝導率の低減メカニズムを解明することを目的としている.当該年度は230 Kで金属絶縁体転移を示し,高温金属相で軌道揺らぎを持つスピネルCuIr2S4の注目し,Cuイオンを一部Agイオンで置換した試料における熱輸送特性を調査した. Cu1-xAgxIr2S4の多結晶試料を固相反応法を用いて合成した.X線回折測定の結果からx=0.05までは単相で合成できるが,それ以上の置換量では不純物相が析出することがわかった.母物質であるx=0の試料では低温絶縁相から高温金属相に移る際に格子熱伝導率の大幅な減少が見られるが,この減少率はAg置換により徐々に小さくなることがわかった.さらに,Ag置換した試料の高温金属相におけるフォノン平均自由行程は母物質よりも高い値を持つことがわかった.これらの振舞いから,高温金属相で生じる軌道揺らぎは追加のフォノン散乱を生じさせ,さらに,この追加のフォノン散乱はAg置換による化学負圧力効果により抑制されることを発見した.このことは,軌道揺らぎによる格子熱伝導率の低減が化学負圧力により制御できる可能性があることを示唆しており,これは高効率な熱電材料を創出する上で重要な指針になると考えられる. 来年度は軌道揺らぎを示す他の化合物について熱輸送特性の調査を行い,軌道揺らぎによる格子熱伝導率の低減メカニズムを解明していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,CuIr2S4の熱輸送に関する研究が完了し,論文出版まで行うことができた.また,当該年度では次年度実施予定の実験について予備実験を実施した.予備実験の結果,スピネル化合物MgTi2O4,Fe3O4,AlV2O4は固相反応を用いた合成では単一相を得ることが困難であることがわかった.合成した試料に含まれる不純物相の存在は,熱伝導率に大きく影響することが考えられるため,当初予定していたこれらの研究試料の変更する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
予備実験の結果,スピネル化合物MgTi2O4,Fe3O4,AlV2O4は固相反応を用いた合成では単一相を得ることが困難であることがわかった.そこで新たな研究試料について探索及び合成を行ったところ,同じく軌道揺らぎをもつLiVO2及びLi2RuO3が不純物相なく単相で合成できることがわかった.来年度はこれらの物質について熱輸送特性を調査していくつもりである.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調に進んだため,令和6年度における研究費の前倒し申請を行った.当初予定では,前倒し分の予算で液体ヘリウムの購入を検討していたが,急遽不必要となったため試薬購入に変更した.それにより,前倒し分の予算が大幅に余る結果となった. 次年度では当初の予定通り試薬,液体ヘリウム購入,論文出版等に経費を当てることを検討している.
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