メタン (CH4) からのホルムアルデヒド (HCHO) の直接合成は、省エネルギーであり、その触媒系の開発が求められている。しかし、HCHOの選択性制御が課題となっている。これまでの研究において、リン酸鉄触媒でリン酸ユニットの弱塩基性により逐次酸化が抑制され、HCHOが選択的に生成することを見出してきた。しかし、その他金属リン酸塩の結晶構造がCH4の直接酸化の反応機構に及ぼす影響や、表面の酸化還元・酸塩基特性を含むリン酸塩ユニットの役割については未解明な点が多い。そこで本研究では、種々の金属リン酸塩のCH4酸化に対する触媒活性と反応機構を検討した。 様々な金属リン酸塩触媒の中で、リン酸ビスマス (BiPO4)、リン酸銅がHCHO合成に適していた。高温領域では、BiPO4はFePO4と比べ選択的にHCHOを生成した。反応機構の検討から、BiPO4上で生成した表面活性酸素種がCH4と反応してHCHOを生成することが示唆された。 リン酸銅は種々の金属リン酸塩の中でも最も高いHCHO収率を示した。特に、Cu/Pモル比が1/1であり、硝酸銅を銅源としたCu2P2O7-NO3がHCHO合成に最適であった。反応機構の検討から、(i) Cu2P2O7の表面格子酸素種がCH4と反応してHCHOを生成すること、(ii) Cu2P2O7上の酸化還元能をもつルイス酸Cu2+サイトと弱塩基性リン酸ユニットがそれぞれC-H結合の活性化とCO2への逐次酸化の抑制に重要な役割を果たすことが示唆された。さらに、反応条件下ではα-Cu2P2O7からβ-Cu2P2O7への相転移により酸素空孔形成エネルギーが低下し、この優れた酸素移動能がCu2P2O7の高い触媒性能に寄与すると推定された。 本研究成果は、結晶性金属リン酸塩を用いて系統的かつ表面の酸塩基特性を含めた機構検討を行った初めての研究例である。
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