研究課題/領域番号 |
23KJ1026
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
江崎 博仁 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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キーワード | 認知記憶 / 内側前頭前野 / mPFC / ニコチン / エングラムセル / 嗅覚障害 / マウス |
研究実績の概要 |
本年度は行動薬理学的手法と免疫組織化学染色により、物体認知記憶の神経基盤およびニコチンの物体認知記憶増強の神経メカニズムの一端を解明した。また、嗅覚障害が誘発する物体認知記憶障害発症にかかわる脳領域を同定し、この記憶障害に対するニコチンの有効性を示した。 内側前頭前野(mPFC)興奮性神経細胞の活性化が、物体認知記憶の記銘および想起を促進するとの知見に基づき、記銘時および想起時に活性化していた神経細胞が同一の細胞集団、すなわち物体認知記憶のエングラムセルとの仮説を立て、これを検討した。物体認知記憶の記銘時に活性化したマウスmPFC神経細胞選択的に、想起時の神経活動を再活性化したところ、物体認知記憶の想起が促進された。一方、これら神経細胞の活動を想起時に抑制したところ、ニコチンの想起促進作用は阻害された。以上より、物体認知記憶のエングラムセルはmPFCに存在し、ニコチンはmPFC内のエングラムセルの再活性化を介して想起を促進することが示された。 さらに、記銘中のmPFC-PRH経路を光遺伝学的に活動抑制すると、ニコチンの記銘促進作用は阻害された。以上より、ニコチンの物体認知記憶記銘促進作用はmPFC-PRH経路の活性化を介していることが示された。 硫酸亜鉛経鼻投与による嗅覚障害モデルマウスを作製し、物体認知記憶の障害を確認した。本年度では、このマウスの物体認知記憶課題後の神経活動をc-Fosを指標に評価したところ、mPFCおよび海馬の神経活動が低下した。また、行動薬理学的解析に基づき、嗅覚障害および物体認知記憶障害は、硫酸亜鉛投与1、2週間後も持続し、4週間後には共に緩解することも明らかにした。さらに、この記憶障害はニコチン全身投与により回復した。以上より、嗅覚障害誘発性の認知記憶障害はmPFCおよび海馬の神経活動低下によって惹起され、この記憶障害に対するニコチンの有効性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、行動薬理学的解析および、人為的神経活動操作ツールを用いることで、物体認知記憶の神経基盤および、ニコチンによる物体認知記憶増強作用の神経メカニズムの一端を解明した。物体認知記憶のエングラムセルがmPFCに存在しており、ニコチンによる物体認知記憶の想起促進作用は、mPFC内のエングラムセルの再活性化を介していることを明らかにした。また、ニコチンによる物体認知記憶の記銘促進作用は、mPFC-PRH経路の活性化を介していることを明らかにした。これらの成果を受けて次年度は、蛍光強度変化から神経活動変化を可視化するツール(GCaMP)を用いることで、物体認知記憶課題中のmPFC神経活動における生得的特徴を明らかにする。また次年度は、これら特徴にニコチンが与える影響を明らかにすることも目標としている。以上より、研究計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、GCaMPを用いたカルシウムイメージングにより、物体認知記憶課題中におけるmPFC神経細胞の神経活動変化を、また、本年度までの成果に基づき、物体認知記憶課題中のmPFC-PRH経路の神経活動についても記録を行う。さらに、ニコチンの全身投与が物体認知記憶課題中の神経活動に与える影響についても記録を行う。加えて、シングルセルのイメージングにより、記銘時および、想起時のmPFC内の物体認知記憶エングラムセルの神経活動変化についても記録を行う。最後に、嗅覚障害モデルマウスを用い、物体認知記憶課題中のmPFCおよび、海馬の神経活動変化を記録する。また、これらの脳部位に対する人為的神経活動操作によって、認知記憶に変化を与えうるか検討することで、嗅覚障害誘発性の認知記憶障害発症にかかわる責任脳部位を因果的に同定する。
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