研究課題/領域番号 |
23KJ1071
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
CHEN XIAOYU 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
キーワード | レドックス型化学蓄熱 / 銅マンガン複合酸化物 / 反応速度解析 / 蓄熱モジュール |
研究実績の概要 |
本研究では、500~1000℃の中高温域において、高密度な蓄・放熱が可能、かつ低熱損失という特長を持つレドックス型化学蓄熱技術を用いた新規熱回収・利用システムの実現を目指している。レドックス型化学蓄熱システムは空気中の酸素を利用するため、反応媒体を貯蔵するタンクの設置が不要になり、コンパクトなシステム構成が実現できる。また、熱出力を空気の供給量のみで制御できることから、設置スペースが限られた産業現場向けの蓄熱システムとして大きな可能性を秘めている。 令和5年度は、研究実施計画に従い、銅マンガン系化学蓄熱材(CuMn2O4)へのクロム(Cr)添加効果に関する反応速度解析および多孔体蓄熱モジュールの製作を行った。具体的には、先行研究で開発したCuCrxMn1-xO2 (x = 0, 0.1, 0.3)化学蓄熱材について、475-550℃の反応温度、さまざまな酸素分圧で酸化実験を実施し、酸素分圧までを考慮した酸化反応速度式の決定を行った。つづいて、本研究の装置工学的検討の第一段階として蓄熱モジュールの製作を行った。本年度は低い圧力損失と迅速な蓄・放熱の実現を目指し、多孔体構造を持つ蓄熱モジュールの製作に取り組んだ。なお、蓄熱モジュールの原料として、性能面ではCrを添加した銅マンガン系化学蓄熱材が優れているものの大量合成が容易ではないため、ここではCrを添加しないCuMn2O4を用いた。まず、共沈法によりCuMn2O4の調製を行い、約7.5kgの粉末原料を得た。つづいて、粉末原料から成る原料スラリーをポリウレタンスポンジ(20×20×20mm、13PPI)に含浸・乾燥後、各種条件で焼結を行った。この結果,多孔体蓄熱モジュールの製作に成功したが、機械圧縮強度がやや低く、繰り返し反応により変形が見られるなど、実用化に向けた課題が見出された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、クロム(Cr)を添加した銅マンガン系化学蓄熱材に関する反応速度解析を実施するとともに、CuMn2O4化学蓄熱材を大量調製した上で多孔体蓄熱モジュールの製作を行った。蓄熱モジュールの製作では、従来用いてきたPechini法に比べて生産性の高い共沈法によるCuMn2O4の調製を試みたため、調製条件を最適化するために時間を要した。共沈法で得られた粉末材料には少量のナトリウム-マンガン酸化物の不純物が含まれていたが、蓄熱材の酸化還元特性や蓄熱密度に対する大きな影響は見られず、モジュール原料として利用可能であることが示された。そこで、この粉末原料に対してポリウレタンスポンジを用いたテンプレート法を適用したところ,多孔体構造を持つ蓄熱モジュールの製作に成功した。製作した多孔体蓄熱モジュール反応活性は高かったものの機械圧縮強度がやや低く、50回の昇・降温サイクル後に変形が見られるなど、蓄・放熱実証試験のための要件を満たすには至らなかった。このため、当初の研究実施計画に比べて、やや遅れている状況にあると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、まず多孔体蓄熱モジュールの最適製作条件の決定に注力する。令和5年度の研究を通して焼結温度1100℃、保温時間6時間という最適焼結条件を見出したため、令和6年度はスラリー組成や粘度、ポリウレタンスポンジの孔径・孔密度などのパラメータについての系統的な検討を行うことで、高い反応活性・機械圧縮強度を持つ多孔体蓄熱モジュールの最適製作方法・条件を見出す。その上で蓄・放熱の性能実証まで実施する予定である。これと並行して、ハニカム構造を有する新型蓄熱モジュールの製作および蓄・放熱能力の実証にも取り組む。さらに、数値シミュレーションにより熱・物質同時移動および酸化還元反応をモデル化し、両蓄熱モジュールの最適構造の決定を行う予定である。
|